研究課題/領域番号 |
26440069
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
山地 俊之 国立感染症研究所, 細胞化学部, 室長 (50332309)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スフィンゴ糖脂質 / 志賀毒素 / ゲノムワイドスクリーニング / ゲノム編集法 |
研究実績の概要 |
スフィンゴ糖脂質は、その機能として高次機能や疾患に深く関与することが知られている。志賀毒素(ベロ毒素)は腸管出血性大腸菌の病原性因子であり、細胞表面の糖脂質Gb3に結合後、エンドソーム-ゴルジ体-小胞体-細胞質内へと逆輸送され、リボソームを不活化することで細胞死をもたらす。本研究目的は、プール型レンチウイルスshRNAライブラリーを用いた、遺伝子発現低下による志賀毒素耐性スクリーニングを行うことによって、スフィンゴ糖脂質代謝・輸送に影響を及ぼす新規因子の網羅的な同定・解析を行うことである。 昨年度(H26年度)行った解析により、shRNAライブラリーによるスクリーニングは、予想していた因子がある程度濃縮されていたものの、新規因子の多くはオフターゲット効果によるものであった。また上記のスクリーニングで同定されたセラミド合成酵素2(CERS2)においても、ゲノム編集法を用いて作成したCERS2ノックアウト細胞においては、志賀毒素耐性を示さなかった。このことを踏まえてH27年度は以下の研究を遂行した。 1. CERS2はセラミド生合成の際、C24をはじめとする極長鎖脂肪酸を基質として用いる。H26年度に作成したCERS2変異株のうち、若干の活性が見られる変異株のスフィンゴ脂質代謝を調べたところ、グルコシルセラミド生合成において、極長鎖脂肪酸含有セラミドが優先的に使用されることを示唆していた。 2. shRNAによるオフターゲット効果を回避するため、新たにゲノム編集法の一種CRISPRライブラリーを用いて、志賀毒素耐性を指標としたスクリーニングを行った。その結果、受容体Gb3の生合成に直接関与する遺伝子のほとんどが同定され、また多くの細胞内輸送因子も含まれていた。また両ライブラリーの結果を比較し、CRISPRライブラリーはshRNAライブラリーよりオフターゲット効果が少ないと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26年度に出てきたオフターゲット効果の課題を踏まえ、shRNAライブラリーの結果に執着してオフターゲット効果ではない遺伝子をその中から探索するより、最近使用出来るようになったCRISPRライブラリーを用いたほうが、目標である「スフィンゴ糖脂質代謝・輸送に影響を及ぼす新規因子の網羅的な同定・解析」が可能であると判断した。この方針転換が項を奏し、Gb3生合成に直接関わる合成酵素群としてshRNAライブラリーではUGCG、B4GalT5、GALEのみ同定されたのに対し、CRISPRライブラリーでは上記因子をはじめ、全てのセリンパルミトイル転移酵素サブユニットやUDP-galactose transporterなど、現在考えられているほとんどの酵素が同定されるという結果に至った。このことは同スクリーニングの網羅性が非常に高いことを示している。現在同定された遺伝子の解析を行っているが、その中には新規因子も含まれており、おおむね順調に進展していると考えられる。またH26年度に作成したCERS2変異株に関して解析したところ、糖脂質生合成にセラミドの脂肪酸組成が影響することを見いだした。このことはセラミド分子種の違いがスフィンゴ糖脂質の代謝に影響を及ぼしていることを意味しており、目標に向かって順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度はH27年度にCRISPRライブラリーによるスクリーニングで同定した耐性遺伝子候補群を以下の方法で解析する。 (a)ゲノム編集法を用いて、個々の遺伝子ノックアウト細胞を樹立し、志賀毒素に耐性を示すか確認する。(b) cDNA過剰発現による回復実験-解析する遺伝子のcDNAをクローニングする。上記のノックアウト細胞にそれぞれ対応するcDNAを発現させ、志賀毒素に対して感受性が戻るか検討する。 陽性であった場合は、以下の方法により志賀毒素に耐性を示す作用点を検討する。 (a) FACS解析-上記のノックアウト細胞を用いて、Gb3の細胞表面発現量を蛍光ラベルしたStx1Bサブユニットで染色し、FACS解析を行う。染色量が低下していれば、志賀毒素耐性の原因がGb3の生合成もしくはその後の輸送・膜ドメイン形成の異常であり、維持されていれば、志賀毒素の小胞体・サイトゾルへの逆輸送に異常であると目星を付ける。(b) スフィンゴ脂質解析- ノックアウト細胞を用いて、[14C]ガラクトースや[14C]セリンによるパルスラベルを行うことで、Gb3生合成のどのステップに異常があるか検討する。これらにより志賀毒素耐性の原因が (1) 糖脂質の生合成 (どの点の異常かも含め) (2) 細胞表面発現輸送 (3) 細胞表面からの逆輸送、のいずれに当たるか見当をつける。(c) 同定されたタンパクの機能解析-抗体染色 もしくはGFP融合タンパクを用いて同定されたタンパクの細胞内局在を共焦点顕微鏡で観察し、そのタンパクが機能している部位を推測する。 なお上記と同様の計画は、shRNAライブラリーで単離された遺伝子の一部においては昨年度より進行中であり、H28年度は引き続きその解析も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度未使用額の多くは年度末納品等にかかる支払いが平成28年4月1日以降となったためで、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定である。また試薬のうち費用のかかる抗体等が最終年度に必要となるため、一部最終年度に回した。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度は通常の分子生物学試薬、細胞培養用試薬、プライマー、シークエンス代の他、脂質分析に必要な放射性物質、同定された遺伝子のコードするタンパクに対する抗体及び免疫化学用試薬の購入を計画している。また学会参加に関しては国内2回、海外2回の予定である。また論文投稿代も予定している。
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