研究課題/領域番号 |
26440073
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
福岡 創 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (50447190)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオイメージング / 走化性 / 感覚受容 / 情報伝達 |
研究実績の概要 |
平成26年度は,研究計画に従い,ケージド化合物を用いた局所的外部シグナル導入のための顕微鏡システム構築と,ケージド化合物を用いた局所的外部シグナルに対する細胞応答の計測を行った.本研究では,まず誘引物質であるセリンのケージド化合物(ケージドセリン)を光開裂させるために,405nmのレーザー光を顕微鏡システムに導入し,試料面上でのレーザー光の直径を数十マイクロメートル程度に絞ることによって,標的となる細胞にのみセリン刺激を導入できるようにした.またべん毛繊維に付着させたビーズのカメラ像からモーターの回転方向を自動判別することによって,モーターが反時計回転から時計回転に回転方向転換した瞬間を狙ってセリン刺激を導入した.その結果,セリン刺激導入からべん毛モーターの回転が反時計回転に戻るまでに数百ミリ秒程度を必要とすることがわかった(細胞の応答時間).また,刺激を受容する受容体とモーター間の距離と細胞の応答時間との間に明確な相関関係がみられた.このことから,セリン刺激受容による細胞内シグナル伝達分子CheY-Pの濃度減少(細胞内シグナル)が,受容体の位置を基準とした明確な時間差を伴って,細胞の中を伝わっていることがわかった.また,現在は,上記研究をベースとして,紫色レーザー光およびケージド化合物を用いた刺激導入システムと,青色レーザーを用いたGFP蛍光の計測システムを組み合わせた顕微鏡開発を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で記述した通り,紫色レーザー光およびケージド化合物を用いた顕微鏡システムにより,セリン刺激に対する大腸菌の応答時間(数百ミリ秒)と,受容体の位置を基準とした細胞内シグナル伝達時間の距離依存性(細胞内シグナル伝達分子濃度(CheY-P)の減少)を発見した.この結果を踏まえ,当初の研究計画からさらに踏み込み,現在は細胞内シグナルの方向性を生み出す原因を探索している.本研究において,細胞内シグナルを消去するタンパク質(CheZ)の細胞内局在の位置と細胞内シグナル(CheY-P濃度減少)の方向性の関係を調べており,両者に相関関係があることが分かってきた.現在,この結果を学術雑誌へ投稿するための準備を行っている.また,紫色レーザー光およびケージド化合物を用いた刺激導入システムと,青色レーザーを用いたGFP蛍光の計測システムを組み合わせた顕微鏡開発を開始している.現在は,顕微鏡システムに使用する光学フィルターや光学部品,光学装置の選定,これら光学部品や光学装置を用いたシステムの設計および検証を行っている.また,当初の研究計画に加え,回転電場を用いたべん毛モーターの強制回転システムの構築を開始している.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,まず,上述した「紫色レーザー光およびケージド化合物を用いた刺激導入システムと,青色レーザーを用いたGFP蛍光の計測システムを組み合わせた顕微鏡システム」を完成する.次に,当初の研究計画に従い,以下の実験を進める. 1.ケージド化合物を用いた外部シグナル導入により, 外部シグナルの入力時間(セリン放出の時間)と GFPを融合したシグナル伝達分子(CheY-GFP) の結合・解離の時間差の計測する. 2.テザードセルの回転とCheY-GFP の蛍光観察を同時に行い,モーター回転方向転換と CheY-GFP の結合・解離の時間差の計測する. 3.モーター構成タンパク質FliMのGFP融合タンパク質(FliM-GFP)とCheY-GFPの蛍光強度の比較から,モーターに結合したCheY-GFPの数を見積もる.CheY-GFPの発現量を調節し,モーターの回転方向転換に必要なCheYの最低結合数を検証する. また,実験の進捗状況に応じ,実験の順番や手法は臨機応変に変更する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績の概要,および現在までの達成度で記述したように,ケージド化合物を用いた局所的外部シグナルに対する細胞応答の計測が順調に進んだため,さらに研究を掘り下げるため細胞内シグナルの方向性を生み出す原因を探索するための研究を行った.当初の研究計画を変更し,ケージド化合物を用いた刺激導入システムとGFP蛍光の計測システムを組み合わせた顕微鏡システムの開発に先んじて上術の研究を行うこととなったため,平成27年度使用額に変更が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は,平成26年度に生じた差額と研究計画に計上した平成27年度使用額と合わせて,GFP蛍光の計測システムを組み合わせた顕微鏡システムの開発に必要な光学素子,装置の購入,また,研究遂行に必要な試薬類などの購入費として使用する.
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