研究実績の概要 |
本研究では、クラミドモナスの遺伝子欠損株を用いて、鞭毛繊毛の根元に局在する新しいタイプのダイニンの構造と機能を調べた。クラミドモナスには、15種類もの微小管モータータンパク質・ダイニンが存在するが、そのうち4種類は鞭毛内の存在量が少ないマイナーダイニンである。平成27年度までに、 4 種類のうち3種類(DHC3, DHC11, DHC12)のダイニン欠損株を単離し、その運動性を調べたが、本年度は残りの1種類 (DHC4) のダイニン欠損株を単離し、その運動性を調べた。その結果、どの欠損株でも通常の遊泳条件では野生株と運動性に差は見られないこと、DHC4, DHC11、DHC12 の欠失株では、溶液環境の粘度を上昇させると、同じ粘度の溶液下では野生株よりも遊泳速度が遅くなり、野生株より低粘度の溶液下で運動できなくなること、がわかった。一方、DHC3 は粘度を上昇させても野生株と差はなかった。高粘性下では細胞にかかる大きな粘性抵抗に抗して遊泳する必要があることから、 粘性下にDHC4, DHC11, DHC12 はより強い力を発揮するダイニンであることが考えられた。また、ダイニン欠損株鞭毛軸糸のクライオ電子顕微鏡による3次元構造解析を行い、DHC3, DHC12の鞭毛内局在位置を調べた(東京大学大学院医学研究科・吉川雅英教授との共同研究)。不思議なことに、変異株と野生株の構造に全く差が見られなかった。このことから、欠損株で失われるマイナーダイニンは別のダイニンにより置き換えられている可能性が示唆された。今後は、各ダイニンの鞭毛内局在位置を確定させるために、各ダイニンが鞭毛内に局在するために必要な配列にタグをつけた組み替えタンパク質を変異株に発現させ、タグを頼りに構造解析を行う必要があると考えられた。
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