研究課題/領域番号 |
26440076
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
浜田 大三 三重大学, 生物資源学研究科, 特任准教授(教育担当) (60372132)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | タンパク質のフォールディング / エネルギー地形 / 平衡論 / 速度論 / 抗体 |
研究実績の概要 |
現在、ヒトをはじめ、数々の生物のゲノム情報が蓄積する中で、アミノ酸配列から、個々の蛋白質の立体構造を予測する技術を確立することが、益々、生物物理学にとって重要な研究課題であると世界中で認識されている。 本研究では、潜在的に配列多様性を持つ抗体軽鎖であるREIの可変領域(VL)の単量体型変異体を材料とし、その立体構造構築に必須の配列要素を明らかにすることを目的としている。 本年度は、特に単量体型REI VLのフォールディング機構について、主にトリプトファン残基の蛍光スペクトルをプローブとして、手混ぜ、ストップトフロー蛍光などを用いた解析を行った。その結果、尿素変性からの単量体型REI VLの速度論的フォールディング反応は、少なくとも5つの異なる反応相からなる、複雑な反応機構を示すことが、明らかになった。これらの反応相は、数秒から数時間といった幅広いタイムスケールで起きる様々な反応過程に分類されることが示された。さらに、尿素変性の反応速度についても同様な解析を行ったところ、少なくとも二つの反応相が検出されることが明らかになった。さらに、興味深いことに、塩酸グアニジンを用いた単量体型REI VLの平衡論的な変性過程において、少なくとも異なる残余構造を持つ熱力学的に安定な変性状態が形成されることが、トリプトファン残基由来の蛍光スペクトルの解析から明らかになった。 以上のことから、単量体型REI VLのエネルギー地形の中には、平衡論的に異なるマクロなレベルでの構造状態が複数存在していることが明らかになった。当初、本来、二量体であるREI VLを単量体化することで、反応系が単純になることが期待されたが、この研究より、VL単量体のフォールディング反応の複雑さが、浮き彫りになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、擬野生型VLである単量体型REI VLに対し、複数の変異体を作成し、それらのフォールディング反応機構について比較を行う予定であったが、上述の通り、反応系が予想以上に複雑であったがために、本年度は、そのような解析を実施することが出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
上記の単量体型REI VLの複雑なフォールディング反応の主要な反応フェーズは数時間のタイムスケールからなる非常に遅い反応過程によることが、分かっている。このような遅い反応には、プロリンの異性化が関与している可能性がある。 それゆえ、単量体型REI VLに存在する6つのプロリン残基全てに変異を施すことで、フォールディング反応系が単純化されることが期待される。そのようなプロリン無しの変異体を擬似的な野生型とした、VLのフォールディング反応機構の解析を実施することで、当初の目的を達成することが出来ると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、蛍光ストップトフロー装置の拡張のため、分光器を計上していたが、前述通り、予想以上に複雑な反応機構が見られたことや、異動後、実験に用いるタンパク質の精製において、高速回転することができる遠心機用のロータが必要になったため、分光器を購入するための予算を、ロータ購入に回す必要があった。さらに、変異体作成のための試薬の予算を組みこんでいたが、それらを作成することもできなかったため、その余剰分を次年度に引き継ぐこととしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
前述の通り、繰り越し分の予算は全て、変異体作成のために使用することとする。また、現在、執筆中の論文の投稿料などにも使用し、この一年で生じた研究の遅れを取り戻すこととする。
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