本年度は、まず、密度マップからαへリックスを同定する問題に取り組んだ。このために、混合正規分布モデル(Gaussian Mixture Model; GMM)における、密度マップにあてはまるガウス関数を推定する計算手続き(EMアルゴリズム)を改良し、αへリックスに相当する形状のガウス関数だけに限定する、ライブラリーGMMという算法を開発した。この算法は1個のガウス関数でαへリックスを表現する方法であり、計算も比較的高速である。しかし、形状の詳細は1つのガウス関数では表現できないため、へリックスの正確な位置・向きを再現するには限界があり、より詳細な原子モデルによる精密化も必須であることも明らかになった。 次に、これまでに開発を進めてきたガウス関数群を入力とする混合正規分布モデルの算出する理論を、画素数の多い3D密度マップをGMMに高速に変換する計算に適用した。こうした場合、いくつかの画素を一つの画素にまとめた密度マップ(ダウンサンプルした密度マップ)を入力とする方法が一般的である。我々は、いくつかの画素をまとめて一つのガウス関数に置き換え、それを入力データ群とみなす方法を開発し、ダウンサンプルガウス入力法と名付けた。この方法は、高速に計算が可能で、従来のダウンサンプルされた密度マップを入力とする方法に比べて、より正確に混合正規分布モデルを再現できることがわかった。 WEBサービスについては、生体超分子の形状比較を行うOmokage検索のWEBサービスに、X線小角散乱のモデルデータベースSASBDBを含める作業を進めた。さらに、密度マップや原子モデルのブラウザ内での表示を、これまでのJSmolからWebGLの技術を用いたMolMil等を用いるように改良し、高パフォーマンスでの構造観察を、より多くのユーザーのプラットフォームで行なえるようにした。
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