研究課題/領域番号 |
26440080
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
宮澤 淳夫 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (60247252)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経筋接合部 / アセチルコリン受容体 / シナプス / 電子顕微鏡法 |
研究実績の概要 |
C2C12細胞由来筋管細胞を用いて、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)クラスターが成熟するまでの過程において、nAChRおよび筋特異的受容体チロシンキナーゼ(MuSK)のクラスターの数や大きさを共焦点レーザースキャン顕微鏡(LSM)で、クラスター内でのそれぞれの分子局在を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、従来、成熟クラスターのモデルとしてはアグリン添加後16時間後の筋管細胞を観察に用いてきたが、アグリン依存的なnAChRクラスターの成熟はアグリン添加後約2時間から起こることが分かった。また、クラスターの成熟に関与するシナプス間隙に存在する分子としては、プレシナプスから放出されるアグリン以外に、シナプス間隙で細胞外マトリックスを構成するラミニンも報告されている。LSMとSEMを用いた相関観察の結果より、アグリンによって成熟したクラスターとラミニンによって成熟したクラスターでは、クラスター内のnAChRとMuSKの分子分布が異なる傾向が観察された。LRP4を介してシグナルが伝達されると考えられているアグリンに対して、ラミニンはジストログリカンを介したシグナル伝達機構に関わっていると考えられている。本来生体内では両者が存在しているが、クラスター成熟時にnAChRを集積する経路が両者で異なっていること示す結果となった。 また、NG108-15とC2C12の2者共培養にシュワン細胞を添加した3者共培養では、2者共培養と比較して、nAChRクラスターの形成が促進される。しかし、生体の神経筋接合部(NMJ)のようなヒダ状構造の形成は認められない。そこで本年度はより生体のNMJに近いin vitro NMJを作製するために、マウスES細胞から運動神経を分化誘導させる系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスES細胞から運動神経を分化させる系を確立した事で、より生体のNMJに近いin vitro NMJを用いた実験を展開することが可能になった。 また、当初の実施計画通り、C2C12細胞膜表面で発現しているnAChRに対して免疫標識法を用いて標識を施し、nAChRクラスター構造が成熟するまでの発生段階を追って、LSMとSEMを利用した相関観察法によりnAChRの分子局在を観察した。今年度は、C2C12細胞での観察を重点的に行ったため、ES細胞から分化させた運動神経との共培養系で得られるシナプスモデルでは分子局在についてまだ充分なデータが得られていないが、C2C12細胞での分子局在についてはnAChRだけでなく、次年度に観察予定であったMuSKについても同時標識することで併せて観察を行うことができた。 以上のことから、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により確立させた培養シナプスモデルで、シナプスに局在するタンパク質の分子局在解析を行う。nAChRクラスター構造が発生、成熟する過程では複数のタンパク質分子がシナプスのヒダ状構造形成やnAChRの集積に関与していることが知られている。そこで、nAChRの集積に深く関与すると考えられているMuSK、rapsyn、LRP4などをそれぞれ遺伝的標識法または免疫標識法を用いて分子標識する。そして光学顕微鏡で蛍光観察した後、同じ細胞を電子顕微鏡で観察(相関観察)し、成熟するまでの各段階において個々の分子がどのように分布、局在しているかを調べる。電子顕微鏡で観察する場合には、次年度は、従来の試料調製法に加えて、生きた状態に近い構造を観察することができるクライオ電子顕微鏡法を積極的に取り入れる。また、nAChRクラスターを構成している膜タンパク質は、細胞表面での分子移動に加えて、細胞内への取り込みと細胞表面への移動によっても機能が調節されていることから、細胞表面での膜タンパク質の分子局在については走査型電子顕微鏡を、細胞内へ取り込まれたものの分子局在については超薄切片を作製し透過型電子顕微鏡を用いて解析を行う。さらに、nAChRクラスターの形態や機能の異常が原因となる神経筋疾患モデルでも分子局在解析を行う。 以上の結果をまとめ、電子顕微鏡法による微細形態や分子局在といった分子レベルの観察結果と、光学顕微鏡法による細胞レベルの生理機能の解析結果を相関させることで、いつ、どこで、どのようにして、nAChRクラスターの形成やNMJの情報伝達に関わるのか、その分子メカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
ES細胞から分化させた運動神経を共培養に用いる方が、NG108-15細胞を用いるより生体内のNMJに近い培養神経筋シナプスモデルを確立できると考え、今年度はマウスES細胞の培養系を導入した。nAChRクラスターの観察は、C2C12細胞由来筋管細胞を用いてすでに開始しているが、定量化するために必要量の大量データ取得はES細胞を用いた共培養系の準備が整ってから集中的に行う方が効率的であるため、nAChRクラスターの標識と観察に必要な物品費を次年度に使用することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
ES細胞から分化させた運動神経とC2C12細胞由来筋管細胞の共培養系で、ポストシナプスに局在する分子を標識し、神経筋シナプスの形態形成およびnAChRクラスターの成熟時の分子集積過程を光学顕微鏡と電子顕微鏡を用いて観察する。
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