研究課題/領域番号 |
26440082
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
足立 健吾 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (60370128)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | トルク計測 / 磁気ピンセット / 回転分子モーター / ポテンシャルエネルギー / 燐酸解離 |
研究実績の概要 |
回転分子モーターF1-ATPase(以後単にF1という)の回転のポテンシャルエネルギーを、3つの触媒部位におけるヌクレオチドの化学状態と回転角度の関数として直接1分子計測によって決定することを試みている。F1をガラス基盤上に固定し、回転子に取り付けた磁気ビーズを磁気ピンセットによって回転させ、ビーズの磁場からのズレでトルクを求める。同時に、蛍光性ヌクレオチドの蛍光1分子イメージング(偏光/デフォーカス蛍光イメージング)によって結合数、結合サイトを直接観察すれば、ヌクレオチドの化学状態ごとの回転ポテンシャルエネルギーを決定できる。予備的ではあるが、結合ヌクレオチド無しとADP1個を結合した状態のポテンシャルを決定できた。
360度あらゆる角度のポテンシャルを精度良く見積もるために、磁気ピンセットの改良を行った。2対の磁極を用い、各対の発生する磁力の強度を変化させることで、磁場の方向を変化させている。残留磁場の小さな磁極材料を採用することで、磁場の方向を正確に制御できるようなり、角度ごとの磁場強度の誤差を最小限にできた。また、磁極の形状を工夫し、以前よりも少ない電流で試料上の磁場強度を上げられるようになった。回転子に付ける磁気ビーズに関しては、これまで使用してきたビーズの大きさ・形状がかなり不揃いだったので、今回新たに材質・大きさともに検討し直した。
加水分解によって駆動される回転において、燐酸解離のタイミングは未だ議論の余地がある。化学反応と回転の共役モデルを完成させるために、加水分解が遅いATPアナログであるATPγSを用いて無負荷回転観察を行った。分解生成物であるチオ燐酸の解離は、燐酸に比べて遅いことが分かった。そのチオ燐酸の解離が、ATPγSの結合後320度には観察されなかった。間接的ではあるが、200度で燐酸解離が起こっていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ポテンシャルを計測する上で問題になると予想された点は、これまでに着実に解決されている。予備的な実験での試行錯誤も終わり、後はデータを蓄積するだけのところまで来ている。
蛍光性ヌクレオチドの直接1分子観察であっても、現在のところ、ATPからADPと燐酸に分解されるような化学状態の変化を知ることはできない。加水分解またはATP合成が起こるような条件下では、そのヌクレオチドの化学状態の変化を回転モデルから予想する必要がある。そのためにも、化学反応と回転の共役モデルを完成させることが重要である。これまで、ポテンシャル計測と平行して行ってきたが、モデル解明に多少時間を費やし気味であったため、達成度をやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
回転モデルに関しては、燐酸解離が200度で起こっているという直接的な証拠が得られるような実験を試みる予定である。そして、早急に成果をまとめたい。
F1-ATPaseの回転ポテンシャルエネルギーは、データをとり続け、できるだけ多くの化学状態におけるポテンシャルを決定する。効率良くまた精度良いデータを集めるための工夫や改善を行っていく。高時間分解能による長時間撮影を可能とするカメラシステムを立ち上げ、数少ない結合イベントを短時間に効率良くデータ収集できるようにし、好条件の分子をできるだけ多く測定できるようにする。
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