回転分子モーターF1のポテンシャル(内部)エネルギーを、回転角度の関数として、3箇所ある触媒部位のヌクレオチドの化学状態ごとに、1分子計測によって直接決定しようと試みてきた。F1をガラス基盤上に固定し、回転子に取り付けた磁気ビーズを磁気ピンセットで回転操作し、ビーズと磁場の向きのズレからトルクを、その積分値としてポテンシャルを求める。同時に、蛍光性ヌクレオチドの蛍光1分子イメージングによって結合した部位を直接観察しヌクレオチドの化学状態を決定する。今のところ化学状態の変化は蛍光1分子イメージングから測定できないため、この回転モーターの化学-力学共役スキームからの推定が必要となる。燐酸解離のタイミングには未だ議論の余地がありスキームの完成を優先させてきた。 ATPγSの分解生成物であるチオ燐酸の解離が燐酸に比べて遅いことを利用して、ATPγS結合後にチオ燐酸解離が320度で起こっていないことを確認していた。チオ燐酸と燐酸の解離速度に有意な違いがあり確かにその違いを見分けられているのかがこの実験の重要なポイントであった。いくつかの温度条件下でおこなったところどれも同様の結果となり、再現性のある信頼できる測定であることが分かった。最終的に好熱菌由来のF1では加水分解と同じ200度で(チオ)燐酸の解離が起こっているという結論に至った。 ADP解離のタイミングついてはこれまで蛍光性ATPによる実験でしか調べられていなかったが、過剰ADP条件下で通常のATPによる高速回転観察から予想通り0度でADPの解離が起こっていることを示した。 ポテンシャルに関しては、結合ヌクレオチド無しの状態とADP1個を結合した状態の測定に成功している。今後の課題は、データ数を増やすこととその他のヌクレオチド条件の測定を進めることである。
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