平成28年度に引き続き、高感度のsCMOSカメラ、および、カメラの半分ずつの視野に2色の蛍光像を分割して投影するW-viewシステムを装備した顕微鏡システムを用いて、in vitroでガラス基板に固定されたEGFR-CT天然変性ドメイン断片分子の1分子FRETイメージング実験をおこなった。EGFR-CT分子の構造と機能との相関について調べるため、溶液中のGrb2分子の有無、EGFR-CT分子上の疑似リン酸化の有無など条件を変えて測定したが、FRET分布に有意な差を検出することはできなかった。そこで天然変性蛋白質は電荷性アミノ酸を多く含み電荷相互作用が構造に影響していると考えられる点に着目し、溶液への塩化カリウム添加でイオン強度を調整して観察したところ、FRETの変化が見られた。そこで、実験手法を溶液中拡散分子の1分子バーストFRET計測に切り替え、溶液条件の違いからEGFR-CTの構造に関する手がかりを得る方針とした。交互レーザー励起(ALEX)法を用い、蛍光色素が褪色した分子からの影響を取り除いてFRET分布を得ることに成功した。塩化カリウム、変性剤(グアニジン塩酸塩、尿素)を添加してFRET分布の計測をおこなったところ、それぞれの濃度変化に対するFRET変化を検出することに成功した。その結果、塩化カリウム添加ではFRETに大きな変化が見られない一方で、変性剤濃度が上がるとFRETが下がることが分かり、EGFR-CTでは電荷相互作用よりむしろ水素結合による局所構造形成が効いていることが明らかになった。
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