研究課題/領域番号 |
26440093
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
丹野 悠司 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (20583123)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 染色体分配 / セントロメア / インナーセントロメア / がん |
研究実績の概要 |
多くのがん細胞は、染色体分配異常の頻度が高いことが知られている。染色体不安定性と呼ばれるこの性質は、細胞のがん化またはがんの悪性化の引き金となっていると考えられている。モデル動物において染色体の均等分配に関わる遺伝子に変異を導入することで、腫瘍の形成が促進されることも報告されている。しかしながら、実際のがん細胞において染色体不安定性が引き起こされる分子機構については未解明の点が多い。我々の研究結果から、シュゴシンタンパク質・オーロラBキナーゼを中心としたICSネットワークの不安定化が、染色体不安定性の主要な原因である可能性が示唆された。ICSネットワークの不安定化の原因について調べた結果、セントロメアにおけるヒストンH3K9me3レベルの低下が主要な原因であることが明らかとなった。また、コヒーシンの染色体への結合レベルの低下も原因となることがわかった。H3K9me3によって局在化するヘテロクロマチンタンパク質およびコヒーシンはそれぞれ直接的にシュゴシンタンパク質と結合し、セントロメアにおけるその安定化を促進していることもわかった。興味深いことに、ICSネットワークを人工的に安定化させた細胞では、染色体不安定性が抑圧された。また、ICSネットワークの不安定化は、肺がんの臨床検体においても観察された。これらの研究成果は、がんの進展を促す染色体不安定性のメカニズムを明らかにした重要な知見であるとともに、がん細胞特異的に不安定化しているICSネットワーク構成因子が分子標的薬のよいターゲットとなる可能性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
染色体不安定性細胞株におけるICSネットワークの不安定化について論文として発表することができたことは大きな成果であった(Tanno et al. Science 2015)。しかしながら、ICSネットワークを不安定化する分子基盤については未解明の点が多く残されている。また、実際の腫瘍検体におけるICSネットワークの解析についても解析が不十分である。これらの課題は急務であり、今後全力を挙げて取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
ICSネットワークの不安定化が染色体不安定性細胞株においてひろくみられることから、種々のがん関連遺伝子がICSネットワークを制御する可能性について調べる。また、腫瘍検体におけるICSネットワークについてもさらなる解析を行う。
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