染色体不安定性(CIN)と呼ばれる高頻度の染色体分配異常は、がん細胞に広く観られる性質である。マウスモデルを用いた解析などから、CINが細胞のがん化およびがんの悪性化の引き金となることが報告されているものの、その分子基盤については未解明の点が多い。本研究課題において私たちは、培養細胞を用いてCINを引き起こす分子機構を調べた。その結果、シュゴシンタンパク質や染色体パッセンジャー複合体(CPC)の局在部位として知られるインナーセントロメア領域の構造異常が、CINの主要な原因となっていることが明らかとなった。この構造異常は、セントロメア領域におけるヘテロクロマチン構造の不安定化や、染色体接着因子コヒーシンの局在レベルの減少によって引き起こされることが示唆された。複数のがん抑制遺伝子が、インナーセントロメア構造を安定化させる役割を担っていることも見出した。 分裂期キナーゼHaspinは、ヒストンH3のリン酸化を通じてインナーセントロメア形成を促進することが知られている。しかしながら、哺乳動物細胞におけるその局在の部位および制御機構については未解明であった。本研究課題において我々は、Haspinがコヒーシン構成因子PDS5に直接的に結合し、インナーセントロメア領域へと局在することを見出した。 これらの研究成果により、正確な染色体分配を制御する分子機構およびCINの分子基盤の一端が明らかとなった。また、CIN陽性細胞特異的に不安定化しているインナーセントロメア構成因子が分子標的薬のよいターゲットとなる可能性が示唆された。
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