研究課題/領域番号 |
26440099
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
森ケ崎 進 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 博士研究員 (90242487)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分裂酵母 / シグナル伝達 / ストレス応答 / ターゲットオブラパマイシン / MAPキナーゼ / 細胞生物学 / 低分子量型Gタンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、代謝や細胞増殖を制御するターゲットオブラパマイシン(TOR)の栄養状態や浸透圧などの環境ストレスに対する応答機構を明らかにすることにある。TORはシグナル伝達を担うタンパク質リン酸化酵素で、二つの異なるタンパク質複合体を形成し、それぞれが異なる機能を有すると考えられている。本研究では、それらのうち殆ど解析されていないTOR複合体2(TORC2)の制御にフォーカスする。初年度の平成26年度は、低分子量Gタンパク質であるRyh1がTORC2のグルコース応答を制御することを見出し、その成果を公表した(Hatano et al. Cell Cycle, 146, pp848, 2015)。また、ストレス応答性MAPキナーゼであるSpc1によるTORC2経路の制御が転写因子であるAtf1を介することを見出した。この結果は、「Spc1がTORC2の直接的な制御因子である」という申請時の作業仮説とは異なるため、研究計画の変更に必要が生じた。 27年度は(1)TORC2構成タンパク質であるSin1のリン酸化によるTORC2経路への影響、そして(2)TORC2経路の 酸化ストレスおよび 高浸透圧に対する応答を解析した。さらに、(3)新規TORC2制御因子の探索の準備に取り掛かった。 (1)Sin1タンパク質のリン酸か部位はすでにHayashiらにより報告がある。これらの部位に変異を導入したがTORC2の活性に変化は見られなかった。 (2)申請時、申請者はTORC2-Gad8経路の酸化ストレス応答にRyh1及び解糖系酵素であるTdh1が必要であることを既に見出していた。27年度はこれらの間の遺伝学的及び物理的相互作用を解析し、今後の研究展開の方向性を決める上で重要な知見を得た。また、Spc1およびAtf1によるTORC2制御を仲介する因子の候補としてPyp1, Gpd1などを得た。 これらは28年度の研究計画の推進に大きく寄与する重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度にグルコースによるTORC2-Gad8経路の制御機構に関する解析する必要性が生じ、これを優先的に行った。そのため、当初26年度に行う計画であった酸化ストレス応答を解析することで、Ryh1及びTdh1によるTORC2経路の分子機構を明らかにする実験を27年度に行った。実験系が確立できていない実験が残されている点は負の評価となるが、それ以外は概ね完了した。 27年度以降の計画に盛り込んだSpc1によるTORC2-Gad8経路の制御機構の解析は27年度内に完了した。その結果は当初の予想とは異なり、Spc1の作用を仲介する因子の存在を示唆するものであった。このため、この因子の探索を行い複数の候補を単離した。当初計画にはなかった展開ではあるが、研究目的に沿っていると共に、実験は着実に前進しており、ほぼ予定通りの進捗であると判断できる。 Spc1の作用を仲介する因子はTORC2経路を直接制御する新規因子である可能性があり、この実験の目的は当初計画の最後の盛り込んだ「新規TORC2-Gad8経路関連因子の探索・解析」と同じである。また、28年度に行う予定の新規TORC2-Gad8経路関連因子の探索に用いる酵母株、プラスミド等の作製に取り掛かり、その幾つかは既に取得した。 以上のことを総合的に判断し、「おおむね順調に進展している」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は最終年度のため、成果を論文として公表することを考慮し優先順位をつけ、高い順に、(1) Spc1の作用を仲介する因子の解析(2) 実験系の確立(3)新規因子の探索を実行する。 (1)では、既に幾つかの候補遺伝子を取得しており、まず、これら遺伝子の破壊がTORC2-Gad8経路の活性に及ぼす影響を解析することで関連因子を絞り込む。得られた因子の遺伝学的および生化学的解析により、Spc1及びTORC2-Gad8経路との関連を明らかにする。これらの結果が得られた時点で、その成果を論文として公表する予定である。 (2) TORC2によるGad8のリン酸化を試験管内で再現するなど、幾つかの生化学実験の系が確立できていない。現時点で、Tdh1のTORC2-Gad8経路の制御機構が不明であり、新しい解析系の確立がこの点を明らかにする一助になる。この制御機構を解明することは成果の公表につながるため、2番目の優先順位とした。また、新規実験系は(1)の課題にも利用可能であり、状況を見ながらではあるが、(1)と並行して行うことも想定している。 (3)これまでにTORC2-Gad8経路の制御因子あるいは影響を与える因子としてRyh1, Tdh1, Spc1を解析してきたが、この経路のストレス応答はこれらの因子だけでは説明ができない。そのため、新規因子の探索は不可欠な課題ではあるが成果の公表という点を考慮すると優先順位は低いと考える。(3-1)では遺伝子破壊株コレクション(当該研究室ですでの購入済み)用い、Gad8のリン酸化に影響がある遺伝子破壊株を選抜する;また、(3-2)ではTORC2構成因子と結合するタンパク質を共沈法により網羅的に解析することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に、TORC2-Gad8経路のグルコース応答に関する成果を論文として公表する必要性が生じ、当初の研究計画とは実験を実行する順番を入れ替えた。また、Spc1の解析の結果は当初の作業仮説とは異なるものであった。以上のことから研究計画を一部分変更したことで、平成27年度中にラジオアイソトープを用いる実験など高価な試薬を必要とする実験を実施しなかった。また、成果の公表に至らなかったため、これにかかる費用も27年度には使用しなかった。これらのことが理由で、28年度に研究費の一部分を繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画の変更などにより前年度までは遺伝学的解析など比較的安価に行える実験を優先的に行ってきた。平成28年度はそれらの成果を公表するという目的で実験を遂行する。そのため、生化学的実験の頻度が高くなると予想され、ラジオアイソトープなどの高価な試薬類やキット類を購入する必要性があり、繰越金額の一部分はこれに充てる。また、新規実験系の確立のために当該研究室で持ち合わせていない試薬、キットなどの使用が予想され、これらの購入に繰越金を利用する。さらに、成果の公表を積極的に行う予定であり、当初計画以上に費用がかかる可能性があるため、こうした用途にも繰越した分を充当する。
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