研究課題
ヒトにおいてタンパク質キナーゼの遺伝子異常は種々の疾患を引き起こすことが知られているため、個々のキナーゼが標的とする基質タンパク質を同定し、そのリン酸化による機能制御を明らかにすることは、基礎研究のみならず診断や創薬などの臨床応用の見地からみても重要である。本研究では、パーキンソン病、自己免疫疾患、循環器疾患などに関わる複数のキナーゼに注目し、研究代表者らが開発してきたリン酸化プロテオーム解析法を発展させることにより、その標的基質を大規模に同定する予定である。そして興味深い新規基質のリン酸化の生理的・病理的機能を解明することを目標としている。本年度は常染色体劣性遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子産物であるセリン/スレオニンキナーゼPINK1が翻訳後修飾因子であるユビキチンをリン酸化修飾することを見出した。そしてリン酸化されたユビキチンはParkinユビキチンリガーゼのE3活性を促進することが判明した。また、マウス胚へのROCK阻害剤(Y-27632)処理により、卵黄嚢の血管形成やbody turningに異常が認められたため、コントロール処理群との比較をIMAC(固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー)と2D-DIGE(蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動)を組み合わせたリン酸化プロテオーム解析によって行った。しかしながら基質候補として質量分析法によって同定されたものはごく少数であった。既知のROCK基質が含まれていなかったため、サンプル調製法を変更する予定である。
2: おおむね順調に進展している
PINK1については、パーキンソン病を抑制する上で重要な働きをもつParkinの活性化に至る重要な基質としてユビキチンを同定することができた。今後さらにPINK1の基質候補を同定するために、IMAC/2D-DIGEやLC-MS/MSによる大規模解析を進める予定であるが、今回同定したユビキチンを既知の基質としてプロテオーム解析結果の妥当性を評価できる。
PINK1やROCKなどのキナーゼを活性化した細胞と、阻害剤処理などによってキナーゼ活性を抑制した細胞から抽出液を調製し、IMAC/2D-DIGEによってリン酸化状態が変化したタンパク質を検索する。さらに別の解析法として、抽出液を酵素消化し、リン酸化ペプチドをTiO2によって精製してからLC-MS/MSによるショットガン解析を行い、目的キナーゼの活性に依存して変動したリン酸化ペプチドを同定する。得られたキナーゼ基質の候補について、Phos-tagウェスタンブロットによるin vivoでのリン酸化の変化をまず検証する。そして興味深い新規基質について、リン酸化部位の同定やリン酸化の機能を生化学的に検討する。
様々な消耗品と大量の細胞培養を必要とするリン酸化プロテオーム解析によるスクリーニングを繰り返すことなく、PINK1キナーゼの重要な基質としてユビキチンを想定よりもスムーズに同定でき、そのリン酸化のin vitroキナーゼアッセイによる検証などの生化学実験を優先させたため。
次年度はユビキチン以外のPINK1基質や、ROCKなどの他のキナーゼの基質を検索するために、様々なリン酸化プロテオーム解析を行う予定であり、細胞培養やプロテオミクス関連の消耗品に使用する予定である。
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Nature
巻: 510 ページ: 162-166
10.1038/nature13392
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http://www.fujii.tokushima-u.ac.jp/cellsignaling/