研究課題/領域番号 |
26440101
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
小迫 英尊 徳島大学, 藤井節郎記念医科学センター, 教授 (10291171)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / プロテオーム / リン酸化 / キナーゼ / PINK1 / ユビキチン / ERK / 核膜孔複合体 |
研究実績の概要 |
ヒトには500種類以上ものタンパク質キナーゼが存在し、様々な細胞内シグナル伝達系で重要な役割を果たしており、キナーゼの遺伝子異常は種々の疾患を引き起こすことが知られている。本研究では、がん、パーキンソン病、自己免疫疾患、循環器疾患などに関わる複数のキナーゼに注目し、研究代表者らが独自に開発してきたリン酸化プロテオーム解析法を発展させることにより、その標的基質を大規模に同定・機能解析することを目標としている。本年度はまず、家族性パーキンソン病の原因遺伝子産物であるPINK1セリン/スレオニンキナーゼがポリユビキチン鎖をリン酸化することを質量分析計を用いて明らかにした。リン酸化されたポリユビキチン鎖がParkinユビキチンリガーゼのレセプターとして機能することにより、異常ミトコンドリアを除去する品質管理機構が働くと考えられた。さらにミトコンドリアのクリステ構造の維持に関与するMICOS複合体の一部のサブユニットにおけるPKAによるリン酸化部位を質量分析法によって新たに見出した。このリン酸化はPINK1を不安定化することから、PKAシグナルがPINK1-Parkin経路を負に制御することが明らかになった。一方、研究代表者らは以前からERKが核膜孔複合体をリン酸化することによって輸送運搬体との相互作用を抑制することを明らかにしていたが、今回ERK自身の核膜孔通過がERKによる核膜孔タンパク質のリン酸化によって促進されることを見出した。このERKによる自己制御機構により、細胞外シグナルに対してERKの核内移行がスイッチ様に応答することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Parkinの異常ミトコンドリアへの移行はパーキンソン病の発症を抑制する上で重要なメカニズムであるが、この過程に関与するPINK1の基質としてポリユビキチン鎖を見いだすことができた。さらにPINK1-Parkin経路がPKAによるMICOS複合体のリン酸化によって負に制御されるという新たな知見が得られた。またERKによる核膜孔複合体のリン酸化が、輸送運搬体のみならずERK自身の核―細胞質間輸送も制御することが明らかになり、ERKのリン酸化から核内移行の段階でシグナルのアナログ/デジタル変換が起こるというモデルが考えられた。以上の知見はPINK1、PKAおよびERKの標的基質の生理機能の解明が順調に進んだと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
さらに多くのPINK1やERKなどの標的基質を大規模に同定・機能解析するために、目的とするキナーゼを活性化した細胞と抑制した細胞から抽出液を調製し、IMAC(固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー)と2D-DIGE(蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動)によるリン酸化プロテオーム解析を行う。並行して抽出液を酵素消化し、リン酸化ペプチドを酸化チタンで精製してから液体クロマトグラフィー/質量分析計によるリン酸化部位の大規模同定と定量を行う。そして興味深い新たなキナーゼ基質について生理機能の解明を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はほぼ予定通りの使用額であったが、前年度において、様々な消耗品と大量の細胞培養を必要とするリン酸化プロテオーム解析を繰り返すことなく、PINK1キナーゼの重要な基質としてユビキチンを想定よりもスムーズに同定できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度はユビキチン以外のPINK1基質や、ERKやPKDなどの他のキナーゼの基質を検索するために、IMAC/2D-DIGE法や質量分析計を用いた様々なリン酸化プロテオーム解析を行う予定であり、細胞培養やプロテオミクス関連の消耗品、およびデータ解析のための人件費などに使用する予定である。
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