研究課題
細胞が熱に曝されると、通常と異なる核-細胞質間輸送経路が活性化する。Hikeshiは熱ストレスに応答して分子シャペロンHSP70を核に輸送する運搬体分子であり、この輸送経路が遮断されると、細胞は熱ストレスによるダメージから回復できずに細胞死を起こす。本研究目的は、熱ストレス時のHikeshiによる輸送の活性化機構の解明と、分子シャペロンシステムにおけるHikeshiの新しい機能を探り、「核-細胞質間分子輸送」と「分子シャペロン」の両システムの細胞機能における統合的理解を目指すことにある。本年度は主に以下のような成果を得た。1. 分子シャペロンシステムにおけるHikeshiの機能:タンパク質恒常性維持機構におけるHikeshiの機能解析を進めた。リコンビナントタンパク質によるin vitro解析により、HikeshiがHSP70によるタンパク質フォールディング活性を制御することを明らかにした。2.ヒト遺伝性疾患におけるHikeshi点変異体の解析:イスラエルグループとの共同研究により、Hikeshi遺伝子の点変異が誘発するヒト遺伝性疾患の解析を行った。このHikeshi点変異体は野生型HikeshiよりもHSP70との結合力が強いが、患者由来線維芽細胞においては内在性Hikeshi点変異体タンパク質の存在量が少なく、熱ストレス時のHSP70核移行も効率よく起こらなかった。Hikeshiが熱ストレス時以外にも重要な機能をもっている可能性が強く示唆された。3. 熱ストレス応答における遺伝子発現変化の解析:新学術領域「ゲノム支援」の援助を受け、RNA-seqによる遺伝子発現解析を行った。野生型とHikeshiノックアウトHeLa細胞で、正常時、熱ストレス時、ストレスからの回復時における遺伝子発現変化のデータを得た。
2: おおむね順調に進展している
海外共同研究として、Hikeshiを原因遺伝子とする遺伝性疾患の解析を原著論文として発表出来たことは大きな成果であり、医学的見地からも本研究の重要性が増したと考える。タンパク質フォールディングシステムにおけるHikeshiの機能の示唆するデータも揃いつつあり、次世代RNAシークエンス解析からは、Hikeshiが熱ストレス時の適切な遺伝子発現応答に重要であることを示唆するデータが得られた。
引き続き、Hikeshiの核-細胞質間輸送における機能解析を進めるとともに、分子シャペロンシステムにおける機能の詳細を明らかにする。また、Hikeshiノックアウト細胞などでのRNA-seq解析などを通して、Hikeshiが転写制御や代謝などにも重要な役割をもっている可能性がでてきたので、これらのHikeshiの機能を分子レベルで明らかにしていく。
抗体等の物品費として予定していたが、実験結果等をさらに検討して購入したいと考え、次年度使用分として残した。
抗体等の物品費として予定している。
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