研究課題/領域番号 |
26440114
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
弥益 恭 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60230439)
|
研究分担者 |
川村 哲規 埼玉大学, 理工学研究科, 講師 (10466691)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ゼブラフィッシュ / 脳形成 / 神経形成 / Notchシグナル / プロニューラルクラスター / 脳領域化 / Gbx2ホメオボックス遺伝子 / POU転写因子 |
研究実績の概要 |
脊椎動物胚神経板における脳の領域化と神経分化を統合的に理解するため、ゼブラフィッシュを用いて以下に述べる一連の研究を行った。 1)哺乳類Oct4の相同遺伝子であるゼブラフィッシュのV型POU転写因子遺伝子pou2の脳発生における機能を検討する為、ドミナントネガティブにPou2機能を阻害する転写抑制型Pou2の加温誘導性遺伝子(hsp-en-pou2) がゲノムに導入されたトランスジェニック(Tg)魚を用いて原腸形成終了期でのpou2機能を阻害し、この際に発現が変動する遺伝子をマイクロアレイで同定した結果、発現上昇遺伝子、低下遺伝子のいずれもが多数同定された。GO解析によりpou2制御下にある遺伝子の多くは転写制御、あるいは発生制御に関与すること、Notch関連遺伝子、特にHES型遺伝子であるherの多くが発現変動を示すこと、などを見いだした。 2)pou2は、原腸形成終了期には尾芽、その後は神経管の後端で発現が見られる。この部位では多能性幹細胞、あるいは神経幹細胞が存在することから、これら幹細胞の分化制御にpou2が関与すると予想された。そこで、上述のようにhsp-en-pou2を誘導してPou2の機能阻害を行い、誘導胚の尾芽における神経形成関連遺伝子の発現をin situ hybridizationで検討した結果、myca、klf4、nanog、pou2など、多能性維持に関わる遺伝子の発現が上昇した。神経前駆細胞誘導遺伝子のsox2、後期神経分化誘導遺伝子であるlhx5, ascl1aの発現も上昇した。一方、sox3およびプロニューラル遺伝子の発現は低下した。これらの結果は、pou2が細胞分化、特に神経分化を制御することを示す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度には主としてpou2の時期特異的な機能の解析とpou2の下流遺伝子についての網羅的解析を予定していた。この中で、様々な神経形成遺伝子の発現制御におけるpou2の役割に関しては、抑制型pou2の原腸形成終了期での強制発現実験により解析が行われ、pou2が神経形成に大きく関与することを明らかとした。また、マイクロアレイ法により、pou2の下流遺伝子群を明らかとすることに成功した。以上の結果は、哺乳類では初期胚での多能性維持に注目が集まるV型POU転写因子が、さらに脳形成及び神経分化のいずれにも関与するという可能性を強く支持するものである。
|
今後の研究の推進方策 |
1) pou2、及びこれと同様に脳領域化と神経分化の同時制御に関わると予想するgbx2の神経板における発現について、他の様々な領域化遺伝子、神経形成遺伝子の発現領域との関係を、2色FISH及び共焦点レーザー顕微鏡により詳細に解析する。 2) これまでに、抑制型pou2やgbx2を強制発現させた胚で発現変動を示す遺伝子群を、マイクロアレイにより網羅的に明らかとしている。これらgbx2やpou2の下流遺伝子候補各々について、正常胚での発現と機能、そして脳形成、神経形成における相互作用を検討する。さらに、gbx2及びpou2の既存の変異体、あるいは新規作成の変異体を準備した上で、これら変異体における下流遺伝子の発現を検討する。必要に応じ、下流遺伝子について、強制発現系、遺伝子抑制系を樹立し、機能解析に利用する。 3) マイクロアレイ等で明らかにしたpou2やgbx2の下流遺伝子候補について、発現制御が直接行われるのか、他の因子を介した間接の機構に依るのかを、ホルモン誘導型pou2やgbx2(ERT2-pou2、ERT2-gbx2)とタンパク質合成阻害剤を組み合わせた実験、あるいは移植実験などにより検討する。 4) 以上の総合的研究により、ゼブラフィッシュ胚神経板の領域化と神経分化制御機構の統合的理解を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
27年度(6月28日から7月2日)に予定されていたヨーロッパゼブラフィッシュ研究集会(オスロ)について、大学の業務で参加が難しくなったこと、大学院生数名の学会発表を予定していたが(小型魚類研究会、大阪;分子生物学会、神戸)、研究の進捗状況の遅れに加え、学生自身の就職活動の関係で実際には実現しなかったこと、などにより、旅費が予定より大幅に下回った。また、実験に用いるゼブラフィッシュの飼育管理に雇用する学生への謝金について、他の経費を充てることができた。以上が主たる理由である。
|
次年度使用額の使用計画 |
物品費については予定通りに使用する。旅費については、平成28年の秋に沖縄で開催される動物学会と愛知県岡崎市での小型魚類研究会に、数名の学生とともに参加する予定であり、これらの経費に充てる。その他については、論文の英文校閲に充てる予定である。
|