研究課題/領域番号 |
26440117
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小柴 和子 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 講師 (30467005)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 器官形成 |
研究実績の概要 |
イカ、タコなどの軟体動物頭足類は心臓と呼ばれる器官を3個有している。1個は体心臓と呼ばれ、血液を全身に循環させるという脊椎動物の心臓と同様の役割を果たしている。他の2個は鰓心臓と呼ばれ、鰓に血液を送ることに特化した心臓である。このように頭足類は非常に特殊な心循環器系を有しているが、どのようにして頭足類は2種の異なる心臓を有するようになったのか、その発生学的な解析はなされていない。本研究では世界最小のイカであるヒメイカを用いて鰓心臓、体心臓の発生学的な違いを明らかにするとともに、中胚葉形成から心臓予定領域決定に関わる分子メカニズムを明らかにすることを目的としている。 これまでの研究では脊椎動物において心臓特異的転写因子として働いているNkx2.5遺伝子のヒメイカホモログを単離して発生過程における発現様式の解析を行った。その結果、Nkx2.5遺伝子が体心臓、鰓心臓両方の前駆細胞に発生の初期から発現していることが明らかとなり、左右両側に生じた心臓前駆細胞の一部が体の正中線上で融合して体心臓を形成し、左右両側に残った集団が鰓心臓となることがわかった。この体心臓の発生様式は、脊椎動物の心臓発生においても認められる現象であり、同じ機能を有する心臓が同様の発生過程を経るという点で非常に興味深い結果である。 さらに、中胚葉からNkx2.5陽性である心臓前駆細胞が生じてくる過程を明らかにしていくために、中胚葉マーカーの単離も進めており、いくつか候補が得られているので、発現様式を確認して行く予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展している。心臓マーカーのクローニングは順調に進み、発現パターンの解析から脊椎動物と共通のメカニズムと頭足類特有のメカニズムとが使い分けられることにより3個の心臓が形成されているのではないかという興味深い結果が得られている。心臓予定領域からの細胞の移動を調べるための細胞系譜追跡方法として、色素注入による細胞ラベル、レポーター遺伝子の受精卵への顕微注入の実験系を立ち上げているが、ヒメイカの卵は固い膜に覆われており、これまで実験動物として用いられて来た動物の受精卵とは性質が大きく異なるため、新たな注入法の開発が必要であると考えられる。引き続き様々な手法を検討していく予定である。また、レポーター遺伝子を発現させるためのプロモーターとして、これまでに作製したFosmidライブラリーからNkx2.5遺伝子を含むようなクローンのスクリーニングも現在進めていることころである。
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今後の研究の推進方策 |
心臓予定領域からの心臓形成過程を調べる方法として、直接細胞をラベルする方法を主に進めて行く予定であるが、脊椎動物の心臓形成で得られた知見をもとにした研究も行っていきたいと考えている。脊椎動物の心臓では左右両側に形成された心臓予定領域が正中線上で融合して心臓となる。この左右両側から正中線上への移動に関わる因子についてはいくつか報告があり、その機能を阻害すると左右両側に心臓ができる二叉心臓(cardia bifida)となる。液性の因子であればヒメイカ胚に投与することも可能であると考えられるので、そのような因子をヒメイカ胚に投与した際に、ヒメイカでも両側に心臓ができるのかどうか調べることにより、心臓予定領域の移動について検証することが可能であると考えられる。また両側に心臓ができた場合にはヒメイカにおいても脊椎動物と同様の分子メカニズムで心臓予定領域の融合、心臓形成がなされていることになり、頭足類の心臓形成において重要な知見を得られると期待される。
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備考 |
東京大学分子細胞生物学研究所 心循環器再生研究分野ホームページ http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/junktakeuchi-lab/index.html
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