研究課題
マウスの発生過程で最初に造血幹細胞を認める大動脈-生殖原基-中腎(AGM)領域において、造血幹細胞の発生に関わる血管内皮細胞に隣接する血液細胞塊の細胞に転写因子 Sox17を強制発現すると、長期造血再建能をもつ造血幹細胞を含む血液細胞塊を in vitroで多数得ることが出来る。この細胞塊の形成および造血幹細胞を産生・維持する分子機構を明らかにする目的で、本年度は以下の検討を行った。①準備研究により、Sox17導入により形成された血液細胞塊において、血管内皮細胞のマーカーである接着分VE-Cadherinの発現上昇しているを明らかにしていた。そこで、レトロウイルスを用いてshort hairpin RNAを導入することによりVE-Cadherinの発現を低下させると、血液細胞塊の形成能および造血能が共に減少した。②以前の研究により、AGM領域由来のCD45<low>c-Kit<high>細胞にSox17強制発現した細胞について、マウス個体に移植後長期造血再建能を認めることを示した。そこで、in vitroで多数回継代を繰り返した Sox17導入細胞の長期造血再建能を、致死量放射線照射を施したマウスに移植することにより検討を行った。その結果、移植後3ヶ月後にSox17導入細胞を確認することが出来なかった。③マウスの発生において、長期造血再建能を認める造血幹細胞は胎生 10.5日目に AGM領域に生じることが知られている。そこで胎生9.5日のAGM領域の少数のCD45<low>c-Kit<high>細胞において、Sox17強制発現により長期造血再建能を獲得するか検討を行った。その結果、②と同様に移植後3ヶ月後にSox17導入細胞を確認することが出来なかった。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度に実施を計画していた血液細胞塊と造血能の関連性については、 VE-Cadherinの発現を低下させることにより、血液細胞塊の形成能および造血能が低下することを明らかとした。移植実験については、期待した結果を得ることは出来なかったが、計画通り実施した。
平成26年度及び平成27年度に得られた結果に基づいて、平成28年度に実施予定の研究内容について以下に挙げる。① 胎生10.5日胚の大動脈中にある血液細胞塊におけるSox17、下流遺伝子であるNotch1、および接着分子の発現を、Sox17-mCherry マウスを用いて、共焦点顕微鏡を用いて詳細な発現について検討を行う。② Sox17導入細胞においては、VE-Cadherin以外にも接着分子が発現していることが明らかとなっている。そこで、VE-Cadherin以外の接着分子の発現を低下させることにより、VE-Cadherinと同様に血液細胞塊の形成能および造血能が低下するか検討を行う。また、これらの接着分子の発現と転写因子Sox17との関連についても解析を行う。③ Sox17-mCherry融合タンパク質を発現するマウスを用いて、 Sox17-mCherryタンパク質の AGM造血期における挙動をスライス培養において顕微鏡下で観察を行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件) 備考 (1件)
Stem Cells
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http://www.tmd.ac.jp/mri/scr/index.html