研究課題/領域番号 |
26440121
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
橋本 寿史 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 助教 (30359757)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 細胞分化 / 運命決定 |
研究実績の概要 |
神経堤細胞の派生物である色素細胞は、その発生過程で異なるサブタイプが分化し、メダカでは4種類(黒、黄、虹、白)、ゼブラフィッシュでは3種類(黒、黄、虹)の細胞種に区別される。我々は、sox5変異がメダカの白および黄色素胞に発生異常をもたらすことを見出した。先行研究によって、ゼブラフィッシュにおいてsox10は全ての色素細胞種(黒、黄、虹)の発生に必須であることが報告されている。マウスにおいては、sox5とsox10は、黒色素細胞やオリゴデンドロサイトの発生で競合的に相互作用することによって、細胞分化を制御していることが知られる。これらのことをふまえて、本研究では、メダカとゼブラフィッシュを比較しながら、sox5とsox10の相互作用が色素細胞の多様性を生みだす可能性を遺伝学的に調べた。 昨年度作製したメダカsox10(aおよびb)変異体およびゼブラフィッシュsox5変異体を、それぞれ既存のメダカsox5変異体およびゼブラフィッシュsox10変異体と交配し、sox5;sox10多重変異体を作製した。ゼブラフィッシュでは、sox10変異体で黒および黄、虹色全ての色素細胞種が減少したが、sox5; sox10二重変異体ではそれが有意に回復した。メダカにおいては、sox10a変異体で黒色素胞および虹色素胞の減少が見られたが、sox5; sox10a二重変異体では、それが一部回復した。一方、メダカでは黄色素胞はsox10遺伝子量依存的に形成されることが明らかとなったが、これらの変異体がsox5を欠損すると、黄色素胞はさらに減少(欠失)した。また、メダカの白色素胞はsox5; sox10a二重変異体でsox5変異体よりも増加した。これらのことから、ゼブラフィッシュの黒および黄、虹色素胞とメダカの黒および虹色素胞の発生においては、Sox5はSox10の機能を抑制的に調節し、メダカの黄および白色素胞の発生においては協調的に調節することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メダカとゼブラフィッシュにおいて、TALEN法あるいはCRIPR/Cas9法による新規変異体の作製、その交配による多重変異体の作製や、表現型解析が大きく進展し、予想を上回る成果があった。具体的には以下の通りである。 ゼブラフィッシュでは、sox5およびpax3a、pax3b、pax7a、pax7b変異体を作製し、既存のsox10変異体とsox5変異体を交配した。sox10変異体とsox5変異体に関する成果は、前述の通りである。pax3変異体とpax7変異体についても、多重変異体の作製とその表現型解析を進め、これらの遺伝子が黄色素胞の発生に必須であること、黄色もしくは黒および虹色への運命決定に関わっている可能性を示す結果を得ている。 メダカでは、sox10aおよびsox10b変異体を作製し、sox5変異体との交配を完了した。メダカpax3a変異体については連携研究者である成瀬氏のグループで作製され、系統化を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
上記の通り、メダカとゼブラフィッシュの両方で、sox5、sox10、pax3とpax7の変異体がまもなく全てそろうことになる。今後は、これらを交配した多重変異体を用いた解析により、メダカとゼブラフィッシュを比較しながら、4種(メダカ)あるいは3種(ゼブラフィッシュ)の色素細胞の運命選択の仕組みを解明することに重点を置いて研究を進める。 これまでのところ、メダカとゼブラフィッシュの間で、黄色素胞と白色素胞の運命決定におけるsox5とsox10の相互作用の役割が異なることを示唆する結果を得ている。すなわち、ゼブラフィッシュでは、黄色素胞の形成はsox10によって促進されsox5によって抑制されているが、メダカでは、黄色素胞の形成はsox10およびsox5に促進され、白色素胞の形成はsox10およびsox5に抑制されているように見える。このような遺伝子機能の種間差は、メダカが白色素胞を持つが、ゼブラフィッシュは持たないことに関係している可能性を示唆しており興味深い。また、今後の研究において、黄および白色素胞の系譜に必須の遺伝子であるpax3およびpax7の関与を考慮する必要性を示すものである。 メダカおよびゼブラフィッシュの変異体(多重変異体)はすでに膨大な数に及んでおり、これらの系統を維持するだけでも相当な労力を要する。表現型解析を終えるまでは、ChIPアッセイなど他の解析を一時中断し、遺伝学的知見の集積に集中する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
メダカとゼブラフィッシュの変異体と、その交配による多重変異体の作製や、変異体の表現型解析については、予想を上回る展開があり、当初計画していたChIPアッセイなどの分子生物学的な解析を一時中断して、sox5とsox10にpax3およびpax7を加えた遺伝学的な相互作用に重点を置いて研究を進めている。このため、分子生物学解析に要する高額な試薬の購入を先送りにしている分、平成27年度に未使用予算が増えた。
|
次年度使用額の使用計画 |
上記の通り中断している分子生物学的解析を再開する際には予定していた試薬が必要となるため、時期は遅くなるものの、当初計画通りに予算を執行する。
|