抑制型転写因子であるHes1は、自らの発現量が周期的に振動するという新しいメカニズムによって、神経幹細胞の増殖や分化を制御していることが明らかになってきている。Hes1の発現振動は、①Hes1が自らのmRNA発現を抑制するネガティブフィードバックループ、②遺伝子産物の不安定性、③mRNAのスプライシングにかかる時間遅れ、によって維持され、制御されることが示されてきた。しかし、Hes1タンパク質の細胞内局在の変化や機能発現に関わる細胞内制御システムについて、特に翻訳後修飾による制御機構については、ほとんど明らかになっていなかった。
我々は、細胞内でのHes1タンパク質の翻訳後修飾による制御メカニズムに焦点をあてて解析を行い、Hes1と結合するタンパク質の網羅的同定、およびHes1の翻訳後修飾を受ける部位を同定してきた。その結果、翻訳後修飾に関連する因子だけでなく、Hes1の転写抑制能に関わる因子や、Hes1タンパク質の局在に関わる因子も同定された。また、Hes1の翻訳後修飾部位の解析から、Hes1のリプレッサー活性とタンパク質分解に重要な部位を同定した。これらの解析を、現在も進めているところである。
一方で、以下の解析も行った。胎児期に豊富に存在する神経幹細胞は、成体脳においても維持されているが、そのほとんどは休眠状態にあると考えられている。培養神経幹細胞を用いた解析から、休眠状態の神経幹細胞において、Hes1mRNAとHes1タンパク質の発現量は共に増加することが明らかになった。そこで、休眠状態の神経幹細胞におけるHes1の安定性や機能変化、並びに、細胞内分解による制御機構の検討を行った。その結果、得られた内容をとりまとめ、現在、論文を投稿中の状況である。
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