研究課題/領域番号 |
26440125
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
荒木 正介 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (00118449)
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研究分担者 |
小林 千余子 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (20342785)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 網膜再生 / Xenopus / 網膜色素上皮 / 毛様体 / N-cadherin / Gap junction |
研究実績の概要 |
Xenopus laevis網膜再生の組織培養モデルとして、色素上皮組織(RPE)の平面培養を用いて、(1) 細胞移動と炎症反応の惹起、(2) 細胞間コミュニケーションと細胞増殖および神経細胞分化について、いくつかの遺伝子マーカーの発現を指標にして解析をおこなった。 RPE細胞から神経細胞が分化する過程は、(1)RPE細胞が脈絡膜から移動、(2)新たな基底膜上で上皮再形成、(3)神経細胞分化、のステップで進行する。RPE細胞の移動を阻害すると神経細胞分化がおこらないことから、まずRPE細胞が基底膜から遊離し、移動することが再生の引き金になると予想される。この移動が目の中の炎症反応の結果かどうかを知るために、培養下で抗炎症剤Dexamethasone (DEX)を投与して調べた。DEXの投与の結果、確かにRPE細胞の移動は抑制され、神経分化はおこらなかった。培養液からDEXを除くと再び移動を開始した。つまり、再生は、網膜除去に伴って誘起される炎症反応が引き金になる事が示された。 次に、RPE細胞間に形成される接着構造が神経分化にどのような意味があるのかを、Pax6およびRax遺伝子の発現によって調べた。RPE細胞はまずN-cadherinとGap結合の両方をもち、次にGap結合を失い、最後にはN-cadherinの接着を失って、神経細胞に分化する。この過程で、まずRaxとPax6の両方の遺伝子が発現し、Gap結合を失うと、Rax遺伝子の発現が落ちることがわかった。同時に、細胞増殖もGap結合を維持している間はおこらず、Gap結合をうしなうと細胞増殖がはじまる。これらのことから、細胞接着が遺伝子発現を制御し、再生過程を調節している可能性が示唆された。 RPE細胞から再生がおこらないXenopus tropicalisの組織培養系でも同様の調査をおこない、再生との関係が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
組織培養を用いた解析で、再生に必須の遺伝子、RaxおよびPax6の発現パターンと細胞増殖パターンが細胞間接着構造とよく対応することを示すことができた。また、RPE細胞が網膜を再生するX. laevisと再生しないX. tropicalisを組織培養で比較すると神経再生と細胞接着形成との間に対応が見られた。これらのことから、細胞接着様式が再生を調節している可能性が示唆された。ただし、遺伝子導入による細胞間接着と再生の因果関係を正確に把握することはまだできていない。理由は、RPE細胞の初代組織培養で目的の遺伝子を導入することがきわめて難しく、まだ安定した結果を得ることに成功していない。 抗炎症剤Dexamethasoneが神経分化を抑制することを示すことができ、これによって、再生が炎症反応によって誘起・促進される可能性が示された。 以上の事から、予定していた研究計画がおおむね達成されたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
X. laevisとX. tropicalisを比較して、毛様体辺縁部(CMZ)の幹細胞の性質を組織培養下で明らかにする。CMZの組織培養による解析は未だ行われていないので、これによって網膜幹細胞がどのような条件で網膜再生を開始するのかが明らかになる。 一方、すでにニワトリやブタにおいて虹彩に網膜幹細胞が存在することを明らかにしているが、Xenopusにおける研究成果をニワトリやブタに応用することが可能かどうかを検討する。つまり網膜再生能の存在と実際の再生現象が脊椎動物に共通したメカニズムによって制御を受けているのかどうかを明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者荒木正介は、平成27年3月末に奈良女子大学を定年退職し、同年4月から奈良県立医科大学に研究の場を移した。定年退職に伴うさまざまな行事、事務的処理事項、研究機器その他の引っ越しなど、平成26年末には実質的に実験の一部を停止せざるを得なかった。これによって予定していた予算の執行ができなくなり、次年度に執行することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
新規に奈良県立医科大学・生物学教室でラボを立ち上げたので、それに伴い必要な少額備品や消耗品、試薬類を購入する費用に充てる。また、研究補助者の謝金に宛てる。
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