研究課題/領域番号 |
26440126
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
杉浦 真由美 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (60397841)
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研究期間 (年度) |
2014-02-01 – 2018-03-31
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キーワード | 繊毛虫 / 接合 / 接合型 / 性成熟 |
研究実績の概要 |
原生生物繊毛虫の有性生殖開始機構、性決定および性成熟機構の解明を目指して、平成28年度は、前年度までに繊毛虫ブレファリズマを用いて行った「性的未熟期細胞と異なる接合型(I型、II型)の成熟期細胞における網羅的遺伝子発現解析」のデータを元に、さらに発展させた研究を行った。 主にブレファリズマの有性生殖開始に必須である交配フェロモン(ガモン2)の生合成に関わる酵素の同定に取り組み、ガモン2の生合成経路の推定を行った。ブレファリズマのII型細胞が合成、分泌する交配フェロモン、ガモン2はトリプトファンから作られるアミノ酸誘導体である。性成熟度や接合型の違いを反映させたブレファリズマのトランスクリプトームデータセットの中から、トリプトファン代謝に関わる酵素を探し出し、それらの候補因子がガモン2生合成に関わっている可能性を検討した。その結果、ブレファリズマがトリプトファン代謝に関与する酵素として知られるIDO(indoleamine 2,3-dioxygenase)を4種類もっていることが明らかとなった。分子系統解析や遺伝子発現解析、酵素活性測定の結果から、ブレファリズマがもつIDOは特徴的な構造や基質親和性をもち、その中のひとつがガモン2の生合成に関与していることが強く示唆された。さらに、これまでの報告と本研究成果を元に、ガモン2の生合成経路を推定した。これらの研究成果は論文としてまとめ、国際誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した研究目的「原生生物繊毛虫の性決定と有性生殖を制御している分子機構の解明」を目指して、平成28年度までに「ブレファリズマにおける子孫株の樹立と性成熟過程の解析」、および「性的未熟期細胞と成熟期細胞における網羅的遺伝子発現解析」を計画通りに行い、「有性生殖誘導」や「接合型」、「性成熟」に関与している可能性が高い候補遺伝子を複数同定した。特に、有性生殖誘導に関しては、交配フェロモンの生合成に関わる酵素を初めて同定するなど、当初の計画以上の大きな成果を得ることができ、研究が大きく進展した。一方、本研究で計画していた目的のひとつである「接合型特異的な遺伝子発現制御の解析」については、これまでに完了した網羅的遺伝子発現解析を元に、接合型特異的な発現を示す遺伝子群を明らかにするなど、着実に進めつつある。 平成28年度後半は、研究実施場所の変更(電気・ガス工事を含む研究室の移動、設営等)を行う必要が生じたため、研究環境を保つことができず、研究計画の一部を進めることができなかったが、全体としては「おおむね順調に進展している」といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成28年度までに得られた成果を元に、未熟期または成熟期のI型細胞、成熟期のII型細胞に特異的な発現を示している可能性がある遺伝子群の中から、交配フェロモンや交配フェロモン生合成酵素など、「有性生殖誘導」に関連した重要な遺伝子の同定を継続して進める。また、「接合型」や「性成熟」に関連した重要な遺伝子を絞り込み、各候補遺伝子の発現解析を行う。さらに、本研究で得られたこれまでの成果をまとめた、現在投稿中の論文を国際学術雑誌に発表する。 また、ブレファリズマにおける「接合型特異的な遺伝子発現制御の解析」を目的として、これまでにI 型またはII 型を発現していることを確認した複数のブレファリズマ細胞株を用いて、異なる接合型細胞間のヒストン修飾レベルの比較を行う。接合型とヒストン修飾レベルに何らかの関連性がある可能性が示された場合には、接合型特異的発現を示す遺伝子領域におけるヒストン修飾の変動パターンの解析を試みる。まずは、本研究で行った網羅的遺伝子発現解析によって明らかとなった接合型特異的発現を示す可能性のある遺伝子群の中から、接合型と関連している遺伝子を絞り込む。最終的に、I 型特異的発現を示す遺伝子群とII 型特異的発現を示す遺伝子群との間で各ヒストン修飾レベルを比較し、接合型特異的な遺伝子発現へのヒストン修飾を介したエピジェネティクス制御の関与の可能性を探ることを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年10月より新しく研究室を立ち上げることになり、研究実施場所の変更(電気・ガス工事を含む研究室の移動、設営等)を行う必要が生じたため。本事項は、年度初めには予想し得なかったことであり、また複数の工事を伴う研究室の移動であったため、平成28年度後半は、時間・場所共に研究を行う環境を保つことができなかった。そのような理由から、研究計画に記載していた年次計画の一部を進めることができず、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、平成29年度に消耗品の購入や成果発表のための旅費等に使用する。
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