研究実績の概要 |
原生生物繊毛虫の有性生殖開始機構、性決定および性成熟機構の解明を目指して、最終年度である平成29年度は、前年度までに得られた研究成果を元にさらに発展させた研究を進めると共に、これまでの成果を国際学術誌、学術会議等で積極的に公表することに努めた。 本研究課題で繊毛虫ブレファリズマを用いて構築した、性成熟度や接合型(性)の違う細胞における網羅的遺伝子発現解析のデータを利用して、昨年度までに、ブレファリズマの有性生殖開始に必須である交配フェロモンのうち、トリプトファン誘導体である交配フェロモン(ガモン2)の生合成に関わる酵素のひとつとしてIDO-Iを同定した。IDO(インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ)は、広く生物に保存されているトリプトファン代謝に関わる重要な酵素であるが、ブレファリズマのIDO-Iは他のIDOには見られない、ガモン2生合成に特化した基質親和性をもつことが明らかになった。平成29年度は、このIDO-Iのもつ特異的な基質親和性に寄与するアミノ酸残基を生化学的実験によって特定することに成功した。また、トリプトファンの一般的な代謝経路を元にガモン2生合成経路を推定し、ガモン2生合成に関わるIDO-I以外の遺伝子の探索を進め、これまでにIDO-Iの上流で働く可能性が考えられる酵素(TPH: トリプトファンヒドロキシラーゼ)の相同遺伝子を単離した。また、ブレファリズマにおける接合型特異的な遺伝子発現制御の解析を目的として、網羅的遺伝子発現解析の結果から得た候補遺伝子の中から接合型特異的発現を示す可能性が高い遺伝子の絞り込みを着実に進め、様々なブレファリズマ株におけるヒストン修飾の検出に向けた条件検討を行い、今後の研究につながる基礎的なデータを得た。 平成29年度の間に、補助事業期間に得られた研究成果を2報の論文として査読付き国際学術誌に発表し、複数の学会発表を行った。
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