研究課題/領域番号 |
26440128
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
西脇 優子 沖縄科学技術大学院大学, Developmental Neurobiology Unit, 研究員 (20360620)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 視細胞変性 / 細胞死 / 小胞輸送 |
研究実績の概要 |
我々は、ゼブラフィッシュのb-SNAP変異体では、細胞死を誘導するBH3ドメインをもつ蛋白質であるBNip1を介して視細胞変性が引き起こされることを報告した。正常な細胞では、BNip1は小胞体に存在し、syntaxin18(stx18) -SNARE複合体の構成因子として、ゴルジ体から小胞体への逆行輸送を制御する。我々は、b-SNAPの機能欠損によって、stx18 -SNARE複合体の分解が阻害されると、その構成因子であるBNip1のBH3ドメインが活性化され、細胞死の経路が活性化するモデルを提唱した。本研究では、小胞体で活性化されたBNip1がどのようにアポトーシスを誘導するのかを明らかにすることで、上記のモデルを検証する。BNip1は小胞体上で細胞死抑制因子であるBcl2と相互作用し、その結果、細胞死誘導因子であるBaxがBcl2から離れ、活性化すると考えられる。Baxは一般にミトコンドリアの外膜の透過性を上げて、チトクロムCを放出させることで、アポトーシスを誘導する。一方、Baxは小胞体からのCaイオンの放出を介して、細胞死を誘導することも報告されている。そこで、BNip1は、ミトコンドリア膜上のBaxを活性化するのか、小胞体でからのCaイオンの放出を介して、細胞死を誘導するのか、を検証する。今年度は、小胞体でのみBaxを抑制できるER-標的Bcl2をb-SNAP変異体で強制的に発現させ、b-SNAP変異体での視細胞死が抑制されることを明らかにした。この結果から、BNip1の活性化後、小胞体上でのBcl2の枯渇がアポトーシスを誘導する最初のステップであることが明らかになった。現在、ミトコンドリア膜を標的にするBcl2のシステムを構築中であり、また、ゼブラフィッシュでCaイオンを検出できるGCaMPのトランスジェニック系統をb-SNAP変異体に入れた系統を作製している。また、ゼブラフィッシュでBNip1はBNip1a, BNip1bという2つの相同遺伝子があり、その機能分担を調べる目的で、それぞれのゼブラフィッシュ突然変異体を作製している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、ER-標的Bcl2のトランスジェニック系統を作製し、b-SNAP変異体に導入することで、視細胞死が抑制されることを見いだした。このことから、活性化されたBNip1が小胞体上でBcl2と相互作用することが明らかになった。現在、ミトコンドリア膜を標的にするBcl2を発現するシステムを構築している。また、Caイオンの放出を確認するために、Caイオン濃度を可視化するGCaMPトランスジェニックラインを入手し、b-SNAP変異体への導入を進めている。さらに、ゲノムエディティングを利用したTALENを用いて、BNip1a, BNip1bをそれぞれ欠損した変異体を確立中である。現在、それぞれのBNip1変異をb-SNAP変異体に導入し、視細胞変性についての表現型について解析を行っている。研究計画どおり進んでいるので、おおむね順調に進行しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ミトコンドリア-標的Bcl2を作製し、b-SNAP変異体の背景で強制的に発現させることで、Baxがミトコンドリア外膜の透過性を上げて細胞死を引き起こしているのか、小胞体のCaイオン放出を介して細胞死を誘導するのか検証する。また、GCaMPのトランスジェニック系統をb-SNAP変異体に導入し、細胞死に伴うCaイオンの変動をモニターする。 (2) BNip1aとBNip1b変異体の表現型を、野生型およびb-SNAP変異体の背景で解析する。解析に必要な系統は掛け合わせにより作出出来たので、視細胞死の表現型を解析する。 (3) b-SNAP変異体の視細胞死は、小胞輸送が最も活発な時期である受精後2~3日目に集中して起こることから、小胞輸送の過剰活性化に反応して、BNip1依存性の細胞死が誘導される可能性が考えられる。現在、b-SNAPをheat shockプロモーターで発現させるトランスジェニック系統を確立している。来年度は、このトランスジェニック系統とb-SNAP変異体に入れることで、BNip1依存性の細胞死を抑制するためにb-SNAPが必要な時期を特定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、実験に必要なトランスジェニック系統、TALENによるBNip1の変異体系統を作製した。これらの系統の増加に伴い、維持管理を手伝うパートタイムの方を雇用した。コストの節約のため、雇用する人員数と就業時間を、系統の増加状況に合わせたため、見込んでいたよりも実際の経費が節約できた。一方、変異体系統とトランスジェニック系統が予想以上に効率良く採れてきているため、27年度は更に人員の補強が必要と考えている。この状況を考慮し、必要分を次年度へ繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度は、昨年度に引き続き、変異体やトランスジェニック系統の維持のためのパートタイムの雇用を計上する。予想よりも維持する系統するが増加したため、26年度に採用したスタッフに加えてもう一人雇用する。また、解析のための消耗品、学会発表のための旅費も必要分を計上する。
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