本研究では、調節的な発生において位置情報と細胞の行動がどのように制御されるかを理解することを目指し、オオヒメグモの初期胚を実験系として、パターン形成や細胞移動の制御に関わるヘッジホッグシグナルに注目して解析を進めてきた。2016年度までに、ヘッジホッグシグナルによって制御される遺伝子をRNAiとRNA-seqを組み合わせた方法でゲノムワイドに探索し、ヘッジホッグシグナルとの関連が強く示唆された約100遺伝子の発現を解析した。さらに、その中から初期胚で部位特異的に発現する遺伝子を選び、複数の遺伝子の発現を同時に蛍光in situ法を用いて詳細に解析した。これにより、初期胚に前後軸に沿った位置情報が形成される過程において、細胞は遺伝子発現レベルで様々な状態をとっていることが分かり、ヘッジホッグシグナルによる制御の複雑さを示すことができた。続いて、同定した遺伝子のうちの1つに注目して機能解析を行い、この遺伝子が発現制御する遺伝子の同定も行った。この遺伝子が胚盤から体節をもつ胚帯への形態変化に必要であり、体節のもととなる遺伝子発現の縞パターンの形成にはたらくことも分かってきた。2017年度は、これまでに得られたデータを補強するデータを取得することを目指し、初期胚の細胞に様々な状態が作られるプロセスの解析と、鍵となる発生ステージの胚に対する細胞レベルでの解析を行った。得られた蛍光染色画像データを数値的に解析することにも取り組み、ヘッジホッグの発現領域から最も遠い後端部から開始する遺伝子発現に関して新しい知見を得ることができた。
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