研究実績の概要 |
シロイヌナズナにはクラスXIミオシンが13遺伝子,クラスVIIIミオシンが4遺伝子,合計17遺伝子のミオシンが発現している。これらのミオシンは細胞内で原形質流動,小胞,オルガネラの輸送,構造維持,張力発生などをとおして細胞成長,個体成長に重要な機能をはたしていると考えられている。しかし,どのミオシンが,どの機能に,どのような機構で関わっているのか,その分子機構についてはほとんどわかっていない。その大きな要因はシロイヌナズナミオシンのタンパク質レベルの解析データが圧倒的に不足していることによる。そこで当該年度においては,シロイヌナズナの17種類のミオシンを網羅的に昆虫培養細胞の系で発現,精製し,17種類すべてのミオシンの運動機構,調節機構をタンパク質レベルで明らかにすることとした。 まず,運動機構を明らかにするために17種類のミオシンのモータードメイン(MD)を昆虫細胞で発現させ,精製した。そして,それぞれの運動速度を in vitro 運動アッセイによって測定した。その結果,シロイヌナズナのクラスXIミオシンの運動速度は大きく異なることがわかわかった。今回測定したMDコンストラクトから天然の全長コンストラクトの運動速度を推定すると 0.1 um/sの低速の運動速度をもつXI-I, 約5 um/sの中速の運動速度のMYA1, MYA2, XI-B, XI-E XIG,XI-H,XI-J,XI-K, 15 um/s以上の高速の運動速度をもつXI-A,XI-C,XI-D, ,XI-Fと3つの速度に分類できることがわかった。一方,VIII型ミオシンの運動速度は天然の全長コンストラクトの値にするとVIII-A, ATM1が0.1 um/s, VIII-B, ATM2が0.3 um/sであった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度はシロイヌナズナの17種類のミオシンについてMDコンストラクトはすべて完成した。それをもちいた運動速度の測定をおこなった。今年度はHMMコンストラクトを作製して運動速度を測定する。さらに,アクチン活性化ATP分解活性を測定しアクチン最大分解活性Vmaxおよび,アクチンとの親和性をあらわすKmを求める。さらにシロイヌナズナで主要な役割をはたしていると考えられているMYA1, MYA2, XI-B, XI-K, XI-F, XI-IについてはIQコンストラクト,全長コンストラクト,尾部コンストラクトを作製する。そして全長コンストラクトにおいてアクチン活性化ATP分解活性を測定し,HMMコンストラクトと比較することにより尾部による調節機構を調べる。また,17種類のミオシンのMDコンストラクトおよびIQコンストラクトを使用し,ストップドフローによる速度論的解析を行いアクトミオシン反応の各素過程の速度定数(kinetic value)を求め,ミオシンの運動特性,酵素特性の分子的基盤を調べる。さらに,アクチンとの強い結合時間を測定し,duty ratioを求め,ミオシンが輸送タイプか係留/張力発生タイプかを明らかにする。HMMを使用し,全反射照明蛍光顕微鏡による1分子イメージングによって,個々のミオシンのプロセッシビティ(運動の連続性)と運動方向を調べる。また、光ピンセットを用いた1分子ナノ計測により,個々のミオシンの力測定とアクチンからの破断力測定を行い力学特性を定量する。ストップドフロー装置で測定したATP加水分解反応の速度定数(kinetic value)と, ミオシンの力学的な運動から推定される外力存在下でのATP加水分解反応の速度定数から酵素反応の外力依存性を求める。加えて、実際のオルガネラ輸送で想定される複数のミオシンが共同的に力発生している状況をin vitroで再構築し,その輸送特性とモーター間相関を可視化する。
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