顕花植物の葉緑体は固有の小型ゲノムを持ち、約80種類のタンパク質をコードしている。これらの多くは葉緑体内の光化学系やリボソームなどの複合体のサブユニットなので、各サブユニットの量比はほぼ決まっている。これらの合成量の制御は主に翻訳段階で行われる。本研究では、タバコ葉緑体のリボソームタンパク質をモデルに翻訳の量的制御の分子機構の解明を目指す。すでに、S2(236アミノ酸)とS16(85アミノ酸)のコード領域をrps2の5’-UTRあるいはT7ファージgene10由来の5’-UTRと結合して翻訳速度を測定したところ、S16がS2の数倍合成された。S2とS16はほぼ同じ量合成されるはずなので、S16の5’-UTRが翻訳開始を遅らせていると考えられる。本年度は、その翻訳抑制の解析を行った。 S16の5’-UTRに緑色蛍光タンパク質(GFP)のmRNAを結合させたところ、GFPはほとんど合成されなかった。しかし、このmRNAを大腸菌in vitro翻訳系に入れるとGFPが合成された。そこで、この系に葉緑体in vitro系の上清(リボソームを沈殿させた可溶性部分)を加えるとGFP合成が阻害された。従って、葉緑体にはS16の5’-UTRの翻訳抑制を行う成分が存在することを示した。対照として、葉緑体のrbcLの5’-UTRは葉緑体in vitro系でも大腸菌のin vitro系でも同じようにGFPを合成した。さらに大腸菌の系に葉緑体in vitro系の上清を加えても阻害されなかったので、上記の抑制効果はS16の5’-UTRに特有のものである。S16の5’-UTRに上流ORFが存在し、これにGFPmRNAを結合させるとGFPが少し合成されるので、この上流ORFが翻訳抑制に関与していることが考えられる。
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