研究実績の概要 |
植物における二次代謝産物の生合成と蓄積は、生合成酵素やトランスポーターなどをコードする多数の構造遺伝子の協調的な転写制御に依存している。タバコ(Nicotiana tabacum)の毒性アルカロイドであるニコチンは、根で生合成され、主に葉などに蓄積する。その生合成はジャスモン酸と2つの遺伝子座NIC1とNIC2により正に制御されている。タバコは2つの二倍体祖先種に由来する複二倍体種である。 全ゲノム配列の決定(Sierro et al, 2014, Nat Commun)により、ニコチン生合成の構造遺伝子と制御遺伝子に関する詳細が明らかとなった。分子系統解析と発現プロファイリングにより、ジャスモン酸応答性ERF転写因子により統括的にコントロールされる一群の構造遺伝子が、ニコチン生合成レギュロンを形成していることが分かった。NADやポリアミン代謝系遺伝子の重複と発現・機能変化を伴う分子進化により、ヘテロ環形成に関与するニコチン生合成酵素遺伝子が生じてきたと推定された。ERF転写因子、及び、共に機能するbHLH型転写因子MYC2による、構造遺伝子群の転写制御は、制御される遺伝子のプロモーター領域に、これら転写因子により認識されるシス配列をより多く存在することにも反映されていた。 ERF転写因子をコードする遺伝子は、それぞれの祖先種に由来する2つの遺伝子クラスターを構成している。それぞれのクラスターには、ニコチン生合成を制御するERF189とERF199が含まれている。ERF189を含むクラスターはNIC2遺伝子座 (Shoji et al., 2010,Plant Cell)に相当し、変異アレルではERF189を含むクラスターの大部分の領域が欠失していた。 ニコチン生合成に代表される系統特異的な二次代謝系がいかに確立されてきたのかについて、転写因子が支配する生合成レギュロンへのシス配列の獲得に伴う構造遺伝子の取り込みという観点から考察した。
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