研究課題
研究代表者は、和合受粉過程において、乳頭細胞から花粉へCa2+を含む水の移動がおきること、花粉直下の乳頭細胞内でアクチンの重合・束化促進が和合受粉時特異的に起きること、これらの反応が和合花粉表層物質単独で誘起されることをこれまでに見出した。さらに、トランスクリプトーム解析を行い、受粉後と花粉表層部物質付着後にシロイヌナズナ柱頭で発現誘導されるAutoinhibited Ca2+-ATPase (ACA) 13を同定した。この分子は、ゴルジ体周囲のベシクルにも存在し、受粉後には花粉(管)直下の細胞膜に集積した。この結果から、乳頭細胞外へのCa2+輸送には、細胞膜上のACA13分子による輸送だけでなく、Ca2+を内包するベシクルからのCa2+輸送が関与する可能性を考えた。この仮説を証明するために、ゴルジ体経由の細胞壁分解酵素の遺伝子配列を利用したゴルジ体貯留型yellow cameleon3.60(YC3.60)を作製し、乳頭細胞で高発現するコンストラクトを作製し、シロイヌナズナに遺伝子導入し、ゴルジ体やトランスゴルジネットワークのCa2+モニタリングシステムを構築した。現在その解析を進めている。一方、ACA分子種では、Autoinhibitory domainにカルモジュリン(CaM)が結合すると、そのdomainが開いてCa2+輸送能が活性化され、CaM結合部位付近のセリンあるいはチロシンがリン酸化されるとCaMの結合が阻害されdomainが閉じると報告されている。そこで、ACA13と相互作用する因子を探索するために、受粉前と受粉後の柱頭を集めてプロテオーム解析を行い、ACA13と相互作用する候補分子を探索した。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は、1)和合受粉時における乳頭細胞ゴルジ体のCa2+モニタリング系の構築と2)プロテオーム解析によるCa2+輸送体ACA13の輸送活性の制御因子の探索をおもに行った。その結果、受粉時の乳頭細胞内におけるゴルジ体のCa2+モニタリング系を構築することに世界で初めて成功した。さらにプロテオーム解析によりACA13と相互作用する候補分子も同定することができた。さらに、この分子にCFPを繋いだコンストラクトを作製して、和合受粉時の挙動等を解析することで、和合受粉過程のACA13を介したCa2+調節機構が明らかになると期待できる。現在この分子を可視化するためのコンストラクトを作製して、形質転換植物を作出している。従って、研究計画は、当初の予定通りに進展している。
研究代表者は和合受粉から受精に至る過程での花粉・雌蕊細胞内におけるCa2+を介した情報伝達系の実体を明らかにすることを目的としている。今年度は、不稔突然変異体の花粉/助細胞Ca2+モニタリングによる花粉管ガイダンス情報伝達に関わる分子の機能解析を予定している。当初は蛍光プローブによるCa2+モニタリングを行う計画であったが、最近開発された発光/蛍光Ca2+センサータンパク質(Saito et al., 2012, Nature Com.)は、光毒性がないことから、このセンサータンパク質を花粉や助細胞で発現させて新規のモニタリングの構築を計画している。これにより、受精のタイミング等を正確に捉えることができると予想される。受精に至る過程での花粉・雌蕊細胞内におけるCa2+を介した情報伝達系の実体を明らかにするうえで、シロイヌナズナは遺伝子重複が多く、遺伝子破壊株による表現型解析のためには多重変異体の作出が必要になる。また、Ca2+を介した情報伝達系には多くのCa2+輸送体が関与することが予想されるが、それらの分子種は植物種で共通であることが予想される。そこで候補Ca2+輸送体やその調節に関わる分子種の機能解析のためには、遺伝子重複が少ないゼニゴケ等の植物種も利用する予定である。
平成27年度の研究で使用する植物細胞への遺伝子導入用ベクターの購入を3月に予定していたが、海外からの輸入品であるために納期が4月以降になることが3月末にわかった。そのために、その購入費用分が次年度使用額として生じた。
上記、植物細胞への遺伝子導入用ベクターを用いた研究を平成27年度に予定しており、その購入費用分に「次年度使用額」をあてる。
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