研究課題/領域番号 |
26440147
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
坂本 敦 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60270477)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | プリン分解 / 生物ストレス / ジャスモン酸 / アブシジン酸 / 活性酸素 |
研究実績の概要 |
本研究は,生物ストレスに対する初期応答として観察されるプリン分解の活性化の生理学的意義を,この分解系が直接或いは間接的にその生成に関与する2つの本質的に異なる生理活性分子,活性酸素(ROS)およびジャスモン酸(JA)の作用を足掛かりに解明することを目的としている。ROSを生成するプリン分解の初発酵素XDHの遺伝子破壊株(xdh1)が殺生菌に対して野生株よりも感受性が高いことを示唆する結果が昨年度に引き続き得られたが,xdh1の生育表現型は野生株と比較してやや脆弱なことから,その病原菌に対する感受性の亢進がXDHの機能喪失による直接的な影響か,或いは二次的なものかはなお検証が必要である。他方,プリン代謝中間体アラントインがJAシグナリングのマスター転写因子MYC2の発現を惹起することに注目し,主にホルモンシグナリング活性化の観点からその生物ストレス耐性への関与を検証した。アラントインの蓄積は,MYC2が正に制御する生理現象(アントシアニン蓄積,傷害応答)を促進する一方で,負に制御する現象(主根伸長,耐病性)を抑制した。MYC2欠損変異株やJA欠損変異株では,アラントインによる JA 応答の活性化が遺伝子発現レベルで消失したことから,このプリン代謝物がMYC2依存的なJA応答を誘導することが示された。MYC2はもともと乾燥に応答したアブシジン酸(ABA)シグナリングに関わる因子として同定されたため,アラントインによるJA応答の活性化にABAが関与するか否かを検証し,この現象がABAに依存することを分子遺伝学的に明らかにした。近年の研究で,ABAは非生物ストレスのみならず生物ストレスへの応答の制御にも関わることが示されているが,以上の結果はこの知見と矛盾せず,プリン分解系がABA-JA間のクロストークを介して生物応答に関与することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プリン分解中間体が,生物ストレスへの応答に重要な役割を担う JA シグナリングを惹起する分子機構を明らかにし,これらの研究成果を原著論文にまとめて公表した。したがって,研究計画は概ね順調に進行しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
プリン分解系における活性酸素生成の生理的意義を,逆遺伝学的手法を用いて検証する。特に,XDH1の遺伝子破壊がもたらす耐病性の低下がROS生成活性の喪失によるものか,或いは(脆弱な成長表現型による)副次的なものかを引き続き検証する。一方,突然変異株を利用した分子遺伝学的アプローチにより,プリン代謝中間体アラントインが JA-ABA 間の相互作用に関わることが示されたので,ABA シグナリングも視野に入れて生物ストレス応答におけるその役割と作用機序の解明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内に受理された投稿論文の出版に係る費用(カラー印刷代等)や年度末に使用した消耗品等の請求が,次年度に回ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した額は上記請求に充て,次年度分として請求した助成金は,当初の予定通り使用する。
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