研究課題/領域番号 |
26440149
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
真野 純一 山口大学, 大学研究推進機構, 教授 (50243100)
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研究分担者 |
肥塚 崇男 山口大学, 農学部, 助教 (30565106)
松井 健二 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90199729)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 酸化ストレス / グルタチオン / プログラム細胞死 / 植物 / オキシリピン / アルデヒド / アクロレイン / 4-ヒドロキシノネナール |
研究実績の概要 |
1) 活性カルボニル種(RCS)が関与するプログラム細胞死(PCD)のメカニズム 細胞が酸化ストレスを受け,活性酸素によって生じた過酸化脂質が分解して生成する様々なRCSの細胞傷害機構を解明することを目的として,植物培養細胞および植物体の根を用い,酸化ストレスによるPCD誘導の評価系を確立した。DNA断片化,TUNELアッセイ,細胞質収縮を指標としたPCDが過酸化水素あるいはNaCl添加により誘導された。PCDに先立ち,細胞内の4-ヒドロキシノネナール(HNE)やアクロレインなどRCSの含量,およびn-ヘキサナールなど飽和アルデヒドの含量が増大した。これらRCSや飽和アルデヒドを添加すると,培養細胞や根では過酸化水素で誘導されたのと同様のPCDが生じた。すなわち,過酸化脂質に由来するRCSや飽和アルデヒドが植物細胞で酸化シグナルとして作用し,PCDを誘導したことが明らかになった。この結果をまとめた論文はPlant Physiology誌に掲載受理された。 2) 植物のレドックス恒常性に対するRCSの影響 細胞のレドックス恒常性に対するRCSの影響として,以下の実験結果を得た。(1) タバコ培養細胞にプログラム細胞死を引き起こす濃度のアクロレインを与えると,30分以内に細胞のグルタチオン(GSH)含量がもとの5%以下に低下した。(2) シロイヌナズナに強光照射すると葉のRCS含量が照射24時間までは増大し,その後一定となる。強光照射前にGSH生合成阻害剤ブチオニンスルホキシミン(BSO)を葉面散布し,グルタチオン含量を低下させると,強光照射時のアクロレイン増大がより大きく,24時間では増大が停止しなかった。他のRCSや過酸化脂質由来アルデヒドの挙動は,BSOの有無によって影響を受けなかった。これは,強光照射時に生成が増大するアクロレインをGSHが消去することを意味している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 植物細胞のPCDの定量的評価法を確立し,培養細胞および植物体で,酸化ストレスによるPCDにはとくにHNEとアクロレインが大きく関与することを明らかにした。この研究成果はすでにPlant Physiology誌に通常論文として受理された。これによってHNEとアクロレインの植物細胞における生理作用実験系が確立できた。これは,今後の標的タンパク質の特定およびタンパク質カルボニル化修飾の意義の解明に極めて有効である。 2) シロイヌナズナ葉においてGSHの含量とストレス条件下でのアクロレイン増大レベルとが負の相関性を示したことから,細胞でのGSH消費に対して,RCSのなかでアクロレインのみが比較的大きく寄与していることが示唆された。これは細胞のレドックス恒常性にRCSが影響するという作業仮設を肯定する新しい実証データである。またアクロレインのみが大きく寄与するとの結果は想定を越えたものであり,より大きな発見につながると期待できる。 3) 上記2の結果から,植物にはアクロレインのGSH抱合体形成を触媒するグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)が含まれると予測し,HPLCをもちいた活性測定法を確立した。イネ,シロイヌナズナ,ホウレンソウの葉にアクロレインを基質とするGST活性が含まれることを明らかにした。さらにホウレンソウ葉からアクロレインに特異的なGSTアイソザイムを単離し,その酵素学的特性とアミノ酸配列を解析し,アクロレインに特異性を持つ新規なτクラスGSTであることを明らかにした。これは,植物でのアクロレイン代謝へのGSHの関与を強く支持する結果である。さらに,これまで未解明であった植物のアクロレイン解毒消去機構解明への大きな手がかりとなる。 以上のように,研究計画はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1) カルボニル化標的タンパク質のRCSによる修飾機構と生理学的効果の解明。RCSが酸化シグナルとして植物のPCDを誘導することが明らかになったため,RCSシグナルを受容しPCDを開始するセンサー(受容体)タンパク質を特定する。すでに塩ストレス下でRCSにより強く修飾されるタンパク質としてNIT1やCyp20-3を発見した。また,葉緑体ストロマ酵素のなかではホスホリブロキナーゼがもっとも敏感にRCSによって失活することもすでに報告した。これらのタンパク質を組換え大腸菌から精製し,RCS修飾部位を特定するとともに,RCS修飾による機能の変化,細胞内局在性の変化を解析し,これらのタンパク質のRCS修飾のPCD誘導に対する意義を解明する。 2) アクロレインが恒常的にGSHを消費していることが示唆されたため,アクロレインとGSHの抱合体の植物体内での存在をLCMSによって検証する。さらにストレス条件での抱合体生成フラックスの増大と,GSH生合成抑制条件でのアクロレイン増大との関連性を定量的に記述する。これらの解析から,RCSのなかでも特にアクロレインが細胞のレドックス恒常性に大きな影響を与えることを立証する。 3) アクロレインとGSHとの反応に重要なアクロレイン特異的GSTの酵素学的性質や生理学的意義を明らかにするために,cDNAクローニングを行う。ホウレンソウからアクロレイン特異的GSTを再精製し,部分アミノ酸配列をさらに詳しく決定し,ホウレンソウ葉cDNAライブラリから遺伝子を単離する。また,相同性に基づき,シロイヌナズナcDNAから同様の活性をもつGSTアイソザイムクローンを取得し,大腸菌で発現させ,アクロレイン特異的GSTアイソザイムを特定する。酵素学的解析,発現解析,遺伝子破壊株の生理学的解析から,アクロレインによるGSH消費の生理学的意義を解明する。
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