研究課題
ペルオキシソームは、植物のみならず胴部や酵母など真核細胞に存在するオルガネラで、植物では、脂肪酸代謝や光呼吸、活性酸素種の除去など様々な機能を担っている。これらのペルオキシソームの機能が低下すると、種子の発芽不全や個体の成長抑制、配偶子認識異常、種子の稔性低下など植物の生育異常を引き起こす。ヒトにおいてもペルオキシソーム機能の欠損は重篤な遺伝子疾患につながり、酵母では特定の炭素源培地でしか生育できなくなることから、個体の維持にはペルオキシソームの機能が必須であることが明らかになりつつある。ペルオキシソームは独自のゲノムをもたないため、構成するタンパク質は全て核遺伝子にコードされている。そのため、ペルオキシソームの様々な機能の発現には、遺伝子発現後の正確なペルオキシソームへのタンパク質輸送が重要である。しかしながら、その分子機構は十分に理解されていない。本研究では、ペルオキシソームへのタンパク質輸送に関わる因子群の分子ネットワークを明らかにし、植物機能を支えるペルオキシソーム機能発現を分子レベルで理解することを目指す。
2: おおむね順調に進展している
apem変異体における植物個体への影響、特に配偶子認識に関わるペルオキシソーム変異による影響を明らかにすることができた。apem2/PEX13 などのペルオキシソームタンパク質輸送に異常をきたすシロイヌナズナ変異体では、過酸化水素濃度が異常になっていることをイメージング解析により明らかにした。ゼニゴケを用いた解析では、Citrine-PTS1 および RFP-PTS2 を発現させてペルオキシソームを可視化させることに成功した。このことは、陸上基部植物であるゼニゴケにおいても、PTS1、PTS2のタンパク質輸送経路が保存されていることを示している。ゼニゴケの実験を遂行するにあたり、プロモーター置換が可能な30種類以上のゼニゴケ用 Gateway ベクターを構築した。
シロイヌナズナにおけるペルオキシソーム因子の BiFC によるタンパク質間相互作用の実験結果をまとめるとともに、ゼニゴケの因子においても相互作用解析を進める。ゼニゴケにおけるタンパク質輸送の分子機構を明らかにするため、既にペルオキシソームが可視化された形質転換体を親株として、シロイヌナズナ因子のホモログと推定される因子をコードする遺伝子を CRISPR/Cas9 の系で破壊して、その影響を明らかにする。既に、CRISPR/Cas9 のコンストラクションは終了して、現在、形質転換を進めている。
平成27年度の5月に研究室の引っ越しがあり、新たな研究室のセットアップ等に時間がかかってしまったため、実験に用いる消耗品などの使用量も減少した。セットアップ後、研究は順調に進み始めたので、本来、平成27年度に使用予定であった経費の一部を次年度に使用することで、本申請課題をさらに発展させていく。
これまでに解析してきたシロイヌナズナのペルオキシソーム因子の相互作用解析と、新たに同定したゼニゴケにおけるペルオキシソーム因子の相互作用、および CRISPR/Cas9 により遺伝子破壊された変異体の表現型を明らかにする。 CRISPR/Cas9 のコンストラクト作製は本年度において完了しており、平成28年度に直ぐに形質転換できる状況にある。翌年度分として請求した助成金と合わせた研究費は、植物の生育と分子生物学実験を行う技術支援員の雇用費、実験用の消耗品、実験結果を論文としてまとめるための英文校閲費や投稿料、学会発表を行う際の旅費に充当する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 4件) 備考 (1件)
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