多細胞体制をとる褐藻類には隣接細胞間の物質のやりとりを可能にする細胞間連絡構造である原形質連絡が存在している。褐藻類の原形質連絡は直径10-20 nmの管状の構造で、発生段階により出現・分布の異なっていること、細胞質分裂時に形成される一次原形質連絡と成熟した隔壁に新たに形成される二次原形質連絡が存在していることが電子顕微鏡の観察から明らかになった。昨年度までの蛍光標識デキストランを使用した移動観察から、多列形成的な体制をとるHalopteris congesta (クロガシラ目) では20 - 40 kDa、原形質連絡が隔壁の一箇所に集中して存在するpit fieldを形成しているFucus distichus (ヒバマタ目) では3 - 10 kDaのところに排除分子量が存在していることが示されている。今年度は、排除分子量の調整に関与すると考えられる原形質連絡周辺の多糖類の性質について調べるために、原形質連絡が分散、もしくはpit fieldを形成している場合についてアルギン酸、フコイダン、カロースに対する抗体を用いて免役電子顕微鏡法で解析を行った。その結果、いずれの抗体も原形質連絡周辺に陽性を示さなかった。今後は他の硫酸化多糖類の局在についてレクチンなどを使用して調べて行く必要がある。また、原形質連絡内部のアクチンをはじめとする細胞骨格の有無、および細胞骨格による物質移動への調節機構について昨年度までの結果に対して、新たな細胞骨格阻害剤と異なるサイズの蛍光標識デキストランを用いて再検討を行った。これらの結果から、排除分子量や移動距離、時間においていずれも明確な阻害作用はみられなかったことから、原形質内部に細胞骨格が存在していない可能性も強く示唆された。
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