研究課題/領域番号 |
26440162
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
朴 民根 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00228694)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | insulin / glucagon / GLP-1 / GLP-2 / pancreas / liver / energy metabolism / reptile |
研究実績の概要 |
本研究の最初年度でもある本研究期間では、我々が今まで発見したニホンヤモリのinsulinとproglucagonの分子生物学的特徴の進化系統学的な解析に重点をおいた。特に有鱗目を中心とした動物種を用いて、各ホルモンの分子生物学的特徴がどのような進化系統学的背景を持っているかを詳しく解析した。 1) Insulinアミノ酸配列の高い変異率: 有鱗目でのinsulinアミノ酸配列における変異蓄積の分子系統学的な背景を様々な有鱗目の種を用いて調べた。その結果、insulin変異が有鱗目の複数の系統で独立に生じていることが示唆された。この結果は、insulin変異が有鱗目に広くみられる現象であると共に、それぞれの動物群が特徴あるエネルギー代謝系をもっている可能性を示唆するものである。特にニホンヤモリでは環境適応的な分子進化を示唆する結果が得られており、今後特に重点をおいて研究を行いたい。一方、ニホンヤモリでは糖負荷試験を行いinsulinの血糖値調節機能の不全さを調べたが、血糖値制御での異常はみられなかった。 2) GLP-1またはGLP-2のみをコードする新規mRNAの優占的な発現: 新規mRNAは有鱗目特異的なものであるかを解析するために有鱗目を中心とした爬虫類の体表的な種を用いて発現するmRNA isoformの分子種を比較した。その結果、新規mRNAを含む各mRNA isotypeは爬虫類の各系統間で異なり、新規mRNAの発現はヤモリ下目の系統でより顕著であった。 これらの研究結果はニホンヤモリを用いたエネルギー代謝における本研究の方向が有意義であることを示唆するものであり、今後更にニホンヤモリを中心としたinsulinとproglucagonの分子生物学的特徴のもつ生理学的意義をエネルギー代謝の側面から明らかにしていく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヤモリ下目の動物は有羊膜類の中でもエネルギー利用量を減らすことで適応繁栄している動物であると考えられる。ニホンヤモリ(Gekko japonicus)のinsulinとproglucagonの分子生物学的な特徴を最近我々は発見した。このことから、本研究では、「insulinとproglucagonでの分子生物学的特徴の進化学的な背景とその生理学的な意義を解明する」ことを主目的として計画された。 本研究期間では先ず、これら二つのホルモンの分子生物学的な特徴の分子進化的背景を明らかにすることに重点をおいた。解析の対象になった動物種は有鱗目を中心とした爬虫類の中から選び、insulinとproglucagonのmRNAの分子同定を進めると共に、分子進化学的な解析を行った。その結果、有鱗目でのinsulin変異は少なくても3系統の独立して起こった現象であることが明らかとなった。特に注目できることは、ニホンヤモリの仲間では環境適応的な分子進化が示唆された点である。一方proglucagonの研究では、爬虫類の中でも特にヤモリ下目においてGLP-1とGLP-2のみをコードするmRNAの発現が多く観察された。この結果はヤモリ下目では選択的スプライシングを利用してGLP-1とGLP-2の選択的な生合成と放出が可能になっていることを示唆する結果となった。 ヤモリ下目の動物は有鱗目の動物の中でもより低い代謝率をもっていると考えられており、今年度得られたすべて研究結果は、この動物種におけるエネルギー代謝系の特徴的な機構の存在を強く示唆するものである。特に研究当初では想定していなかった「ニホンヤモリでの環境適応的なinsulinの変異とproglucagon新規mRNAの発現」は、本研究で主に用いる動物種であるニホンヤモリでの研究の重要性を示唆するものであり、今後されに研究を深めていきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果を踏まえニホンヤモリを中心にして今後の研究を展開することにし、研究の効率を上げることにする。ホルモン分子での変異がもつ生理学的意義を解明するためには、その受容体からの解析も重要である。このことから本年度はinsulinとproglucagon-derived peptides(glucagon・GLP-1・GLP-2)の受容体の分子同定を加え、各ホルモンの標的器官の解析を進められるようにする。一方insulinとglucagonの標的器官でありエネルギー代謝の中心的な器官でもある肝臓と脂肪組織、そして消化管でエネルギー代謝系の解析に重要な糖と脂質代謝に関連する遺伝子の分子同定を行い、今後生理学的な観点からの研究の基礎を確保する。 1) Insulinアミノ酸配列の高い変異率: ①ニホンヤモリInsulin受容体の分子同定。②肝臓でinsulinとglucagon応答性の遺伝子の発現。③皮下脂肪細胞の分化マーカー遺伝子をニホンヤモリで同定する。 2) GLP-1またはGLP-2のみをコードする新規mRNAの優占的な発現: ①新規mRNA各分子種の発現調節の独立性を発現する細胞と経時的発現の違いから解析する。②glucagon・GLP-1とGLP-2、それぞれの受容体の分子同定し、ホルモンの標的細胞を明らかにする。 3) ニホンヤモリを用いたエネルギー代謝の実験系の確立:エネルギー代謝に関わる各因子の発現変化を捉えるため、季節や栄養そして性別と生殖状況による体脂肪の蓄積や体温調節系での変化を調べる。
|