研究課題/領域番号 |
26440171
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
加藤 尚志 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (80350388)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 造血 / 両生類 / アフリカツメガエル / ネッタイツメガエル / 環境ストレス / 血球 / 造血因子 / 幹細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は,調節系の中でも生命維持に不可欠な末梢血球の産生と維持を司る造血系の環境応答に着目して,脊椎動物における多様性と普遍性の理解を進めるものである。様々な自然環境変化の下で生存している両生類を研究対象に設定し,アフリカツメガエル(Xenopus laevis),ネッタイツメガエル(Xenopus tropicalis)の血球産生調節の環境応答,特に低酸素あるいは低温による環境ストレスに応答して変動する血球産生の調節に焦点を当てて取り組む。この研究では,組織への酸素供給を担う赤血球の産生因子であるエリスロポエチン(EPO),止血血栓形成を担う栓球(哺乳類の血小板に相当する)の産生を担うトロンボポエチン(TPO),そしてこれらの受容体分子(それぞれEPOR,Mpl)の組織における発現や局在の動態を解析することが必須になる。そこでそれぞれの組換え蛋白質の調製や抗体の作出を第1年度より進めてきた。同時に,様々な環境条件に動物を曝し,造血の応答を観察,解析するための動物モデルの検討を進めてきた。特に第2年度では,ツメガエルの飼育水中の酸素濃度を変化させる低酸素曝露モデルや,飼育水を低温にして低温曝露モデルを確立し,変動する分子と分子の連関を調べ,低酸素化マーカーの探索,造血制御の温度応答の探索を展開した。第2,3年度では,それぞれの動物モデルで得た実験結果について,公開された学術論文から構築されるデータベースを基盤とするパスウエイ解析を導入して分析を進め,血球産生調節の環境応答を細胞,分子レベルで解釈することを目指している。すでに一部の成果は学会で発表するに至った。また,両生類を対象として獲得した知見が一般性をもつのか,あるいは種特有のものなのかについても解釈を進めていくことが重要だと位置付けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1年度の実施予定項目は,低酸素曝露ツメガエルモデル,低温曝露ツメガエルモデルを作出し,赤血球数増減や造血因子発現を調べ,マウスに組換えEPO/TPOの免疫を開始し,モノクローナル抗体の作出に着手することであった。これらのうち,動物モデルの作出は予定通りで進んだが,EPO,TPOの組換え体調製方法には再検討事項を残した。第2年度では,EPO,TPOそれぞれの発現系改良を進め,マルトース結合蛋白質融合体として大腸菌発現系を構築した。第2年度課題の中心は,リガンド受容体結合調節モデルの直接な実証(TPO/EPOと受容体の量的変動解析)である。このため,蛋白質相互作用分析装置を導入し,第1年度で調製した諸生物資源を組み合わせ,EPOとEPOR抗体,EPOとEPO抗体,TPOと可溶型Mplなどの分子間の結合解離定数の測定系を確立した。また,EPOR抗体やMpl抗体を活用する様々な実験展開が実現し,特にMpl抗体を用いて,世界で初めて両生類の造血幹細胞画分を同定した。オミクス解析でも幾つか実験例を積み重ねた。特に低温曝露ツメガエルは肝臓が鉄過剰状態なるため,赤血球造血および鉄代謝系の環境応答における連鎖をプロテオミクス,パスウエイ解析にて分析したところ,抗酸化ストレス関連蛋白質群の変動をとらえることができた。これはヒト臨床における輸血過剰に伴う鉄過剰性の貧血の機序解析のモデルになると考えられた。以上のような第2年度の成果は基礎生物学研究と医科学研究の接点となるものとして,基礎(日本動物学会など)や医学臨床系(日本血液学会)で受け入れられ,報告をすることができた。また,日本動物学会シンポジウム等の機会を通じて,ネッタイツメガエルの提供元であるナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)へも動物モデル開発について報告し,研究者間で本研究の成果を共有する機会を得た。
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今後の研究の推進方策 |
第1年度,第2年度の取り組みは,組換え体作出や,それに伴う抗体群の作出で試行錯誤を要しているが,総合的にみて「造血と環境」という視点の研究として充実して進行してきた。本研究着手時に明確に想定していなかった展開項目が2点ある。一つ目は,哺乳動物各種,ゼブラフィッシュなどに続いて,両生類で初めて造血幹細胞(候補)となる細胞画分を同定したことと;二つ目は,低温曝露モデルにおいて主要造血器である肝臓以外の臓器で造血スイッチが入る現象を発見したこと,である。これらの2点とも,実験血液学あるいは動物生理学において重要な知見であると考えており,本研究の第3年度で設定した「総合的解析と総括」に組み入れていきたい。本研究の成果は2016年開催の国内および国際学会で発表する予定である。さらに,日本動物学会(沖縄),日本生化学会(仙台)では,それぞれシンポジウム発表の機会が与えられた。今後,様々な領域の研究者達からアドバイスを頂きつつ,ツメガエルモデルで見出した「造血と環境」の研究成果の検証を拡大し,造血研究一般に波及するような普遍的知見の獲得を進めていきたいと考えている。
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