輸卵管・子宮・膣からなる雌性生殖管は、生殖の場として生物の根源に関わる役割を担っており、その細胞増殖・分化は、女性ホルモン(エストロゲン)によってダイナミックに制御されている。女性ホルモンは生体の恒常性維持、生殖、発生・分化をはじめとした様々な局面で重要な機能を果たしているが、その女性ホルモンシステムの破綻は、乳癌や子宮癌・膣癌などの雌性生殖器官の癌の要因となる。本研究はマウス雌性生殖管をモデルとして、女性ホルモンと、その作用をメディエイトするシグナル因子とのクロストークの観点から、正常時のホルモン作用、及びホルモンシステム破綻のメカニズムを明らかにすることを目的としている。前年度から引き続き、上皮特異的女性ホルモン受容体アルファ(ERα)ノックアウトマウス(ERαCKO)の解析を行うとともに、前年度の研究で明らかとなったFgfシグナルに注目して解析にあたった。マウスの膣の器官培養系を用いた解析では、Fgfリガンド(Fgf22)を添加しても、エストロゲン非存在下では、角質化分化が誘導されないことを明らかにした。またエストロゲン存在下おいても、上皮にERαがないと角質化への分化は見られなかった。このことはFgf22に加え、その他のFgfリガンド、あるいは他のシグナル因子も膣組織の最終分化過程に必要であることを示している。上皮特異的Fgf受容体1及び2(Fgfr1/2)のノックアウトマウス(Fgfr1/2CKO)解析を試みたところ、このマウスは胎生致死であるため現段階では膣での役割解明に至っていない。一方でFgfを含む様々なシグナル因子の複雑な相互作用が存在を明らかしたことは、組織レベルでの女性ホルモンの作用機構解明において、受容体の寄与とその下流のシグナル分子のカスケードを明らかにしていく上で重要な知見となった。
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