研究課題/領域番号 |
26440175
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西野 浩史 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (80332477)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 昆虫 / 触角葉 / トポグラフィー / 嗅感覚細胞 / ナビゲーション / 触角 / 匂いプルーム / キノコ体 |
研究実績の概要 |
地上性昆虫は遮蔽物に富む環境に適応し、無風条件下においてもすぐれた匂い源定位能力をもつことが知られている。しかしながら匂いセンサーである触角鞭節の表面には気流応答性の感覚子は分布しておらず、長い触角を直交するようによぎる匂いの方向を検出する手段を持たない。我々は先行研究から、ワモンゴキブリの触角の前方背側表面と後方腹側表面に由来する嗅感覚細胞群の軸索がそれぞれ2本の触角神経を通過し、性フェロモンを特異的に処理する大糸球体のそれぞれ前半分、後ろ半分に偏向した投射を示すことを明らかにした。このことはゴキブリが直径400ミクロンに満たない細い触角を用いてフェロモンの方向を検出する可能性を示唆するものである。 本年度は、触角内部を走行する各触角神経をさらに2~4分割し、異なる蛍光色素を注入することで、触角前側、背側、腹側、後ろ側表面に由来する嗅感覚細胞の求心繊維がそれぞれ糸球体の最前端、前側中央、後方中央、最後端に偏向する投射を示すことを明らかにした。つまり、触角の前面、後面に由来する嗅感覚細胞からの軸索終末は腹側、背側に由来する軸索終末に比べ、空間的に離れた領域に分布する傾向が強いことがわかった。この空間的分離傾向は触角末梢よりも基部に由来する求心繊維でより強いこともわかった。これらの結果は単一感覚細胞の投射パターンと矛盾しなかった。また、色素注入法や細胞内染色法を用いることで、大糸球体から出力する投射ニューロンが15本存在していること、大糸球体の前後に偏向した樹状突起を持つ単一糸球体投射ニューロンは存在しないことを確認した。現在どのタイプの投射ニューロンが方向感受性を持つのかについて細胞内記録・染色法を用いた絞り込みを進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の最大の目標は、触角周囲に由来する嗅感覚細胞の求心繊維が大糸球体内でどのように組織化されているのかを解明することにあった。結果として、触角前端、後端表面に由来する求心繊維が背・腹面由来の求心繊維に比べ明瞭な投射バイアスを持つことを明らかにできた。この知見は現在進行中の電気生理実験の結果の解釈に重要な示唆を与えるものである。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度に大糸球体への色素注入実験を徹底して行った結果、予想に反して、大糸球体の前後軸に偏向した樹状突起を持つ局所介在ニューロンや投射ニューロンは存在しない可能性が高くなった。このことは、方向感受性は複数の投射ニューロンによって機能分担されるのではなく、単一投射ニューロンの樹状突起と嗅感覚細胞の軸索終末間のシナプス接続様式が糸球体前後軸において異なることによって実現されている可能性を示唆する。H27年度はこの可能性を考慮しつつ、当初の計画通り、投射ニューロンの方向感受性応答の解析および求心繊維と投射ニューロンのシナプス接続についての電顕レベルでの観察を進める。また、触角葉中に多数存在するGABA作動性局所介在ニューロンの寄与を調べるため、触角葉中へのGABA受容体の阻害剤の投与を行い、方向感受性ニューロンの応答にどのような変化が生じるのかについても明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として、染色液などの消耗品の購入を考えていたが、昨年度に購入したストックが十分にあり、消耗品に回す必要がなくなった。また予定していた国内出張を所用のため中止しため、旅費を使用しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費の購入、旅費に充てる予定である。
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