研究課題
エダアシクラゲの卵巣から単離した一次卵母細胞に対し、4つのアミノ酸から成り、C末端がアミド化されているペプチド(現段階では配列を明かせないため、ペプチドXと記載する)を投与したところ、非常に低い濃度(10 nM)まで卵成熟を引き起こすことが分かった。ペプチドX のN末端やC末端を別のアミノ酸に置換したペプチドでは、卵成熟誘起作用が低くなるか、もしくは効果が失われた。また、ペプチドX のN末端側にいくつかのアミノ酸を連結した場合や、蛍光物質を付加した場合にも、効果がなくなるか、極めて弱くなることが分かった。ペプチドX投与後に進行する卵成熟過程の経時変化(卵核胞崩壊、第一極体放出、第二極体放出のタイミングなど)は、生理的条件下である光刺激(明状態→暗状態への移行)の際に起こる変化と同様であった。また、ペプチドX投与によって得られた成熟卵は、生理的条件下で得られた成熟卵と同様、正常に受精・卵割し、幼生にまで発生した。ペプチドXおよびそのC末端をアラニンに置換したペプチド(ペプチドYと記載)に対する抗体は、互いに交差せず、特異的に抗原を認識することが確認された。これらの抗体を用い、光刺激前のエダアシクラゲの卵巣を間接蛍光抗体法により染色したところ、どちらも卵巣上皮に散在する神経様の細胞を認識した。Zenon抗体ラベリングキットを使用して、この2つを同時染色した結果、両者は互いに異なる神経様細胞を認識していることが分かった。エダアシクラゲに光刺激を与えてから20分以内には、抗ペプチドX抗体によるシグナルは有意に減少したのに対し、抗ペプチドY抗体によるシグナルは残存していた。以上の結果は、ペプチドXもしくはその類似体が生理的条件下でエダアシクラゲの卵成熟を誘起するホルモンとして働いている可能性を示唆している。
2: おおむね順調に進展している
年度当初の実験計画のうち、およそ4分の3の項目に着手することができ、いずれも今のところ予想通りの結果が得られている。残りの4分の1にあたる、抗体を用いた阻害実験についても、近々実施予定である。
前年度の研究から、ペプチドXがエダアシクラゲの卵成熟誘起を誘起すること、および、卵巣上皮に存在し、光刺激後に放出されていることが確認された。次のステップとしては、抗ペプチドX抗体が光刺激による卵成熟を阻害するかを調べる。この実験がうまく進展しなかった場合には、ペプチドXをコードしている遺伝子を探索し、それをノックダウンもしくはノックアウトすることを試みる。いずれかの方法によって、ペプチドXが生理的条件下での卵成熟に必要であることを証明したい。さらに、ペプチドXもしくはその類似ペプチドが他の種のクラゲ(シミコクラゲ、オベリアクラゲ、オワンクラゲ、ミズクラゲなど)やイソギンチャク(ミドリイソギンチャク、タテジマイソギンチャクなど)にも存在しているかどうか、また卵成熟誘起に関与しているかどうかについても調べていく。
抗体を用いた阻害実験のために、いくつかの試薬の購入を考えていたが、この実験を次年度に行うことにしたため、その分として次年度使用額が生じた。
早期のうちに、前年度に購入を予定していた試薬類を発注するとともに、本年度の分も当初の使用計画通りに執行していく。
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