研究課題
エダアシクラゲのメスは、暗刺激(明状態から暗状態への移行)に反応して、卵巣内の一次卵母細胞の卵成熟を開始させ、放卵へと至る。今回、エダアシクラゲの一次卵母細胞に対し卵成熟誘起効果のあるペプチドXとペプチドY(ともに4つのアミノ酸から成り、C末端がアミド化されている)に着目した研究を進めた。まず、エダアシクラゲのメスにおけるトランスクリプトーム解析を行った結果、ペプチドXとペプチドYをコードする遺伝子が少なくとも1つずつは存在することが確認された。次に、それぞれのペプチドに対する抗体を作製し、これらをエダアシクラゲの一次卵母細胞に投与して卵成熟への影響を調べたところ、1, ペプチドXに対する抗体は、ペプチドXによる卵成熟は阻害するものの、ペプチドYによる卵成熟は阻害しないこと、2, ペプチドYに対する抗体は、ペプチドYによる卵成熟は阻害するものの、ペプチドXによる卵成熟は阻害しないことが明らかになった。ペプチドXとペプチドYに対する抗体は卵巣上皮の神経細胞を認識したが、それぞれの染色パターンは大きく異なっていたことからも、これらの抗体はそれぞれ特異的に作用していると考えられる。さらに、暗刺激による生理的条件下での卵成熟がどちらの抗体で阻害されるか調べたところ、ペプチドXに対する抗体のみが有効であった。これらの結果は、ペプチドXとペプチドYはともにエダアシクラゲの卵巣上皮の神経細胞に内在するものの、暗刺激の下流で卵成熟誘起物質として働いているのはペプチドXであることを強く示唆している。
2: おおむね順調に進展している
抗体による中和実験によって、本研究において最も重要であると考えていた結果、すなわち、ペプチドXが光刺激による生理的条件下での卵成熟誘起物質であることを強く示唆する結果を得ることができたため。
これまでに得られた結果をまとめた論文はほぼ完成しており、近日中に学術雑誌に投稿する予定である。今後は、この論文が受理される上で必要な追加実験(レフェリーから指摘された場合)を行うとともに、ペプチドXもしくはその類似ペプチドが他の種のクラゲやイソギンチャクにも存在しているかどうか、卵成熟誘起に関与しているかどうかを調べていく。また、ペプチドXが実際のフィールドでも機能していることを示すために、生態学と生理学を融合したような新たな研究にも着手したい。
抗体を用いた阻害実験が順調に進んだため、分子生物学関連の試薬の購入が不必要になったこと、成果発表のための旅費が当初の予定よりも安く抑えられたことなどにより、次年度使用額が生じた。
成果発表(学会発表ならびに論文掲載)のための経費を確保しつつ、本年度の計画に必要な物品類を早期のうちに購入することにより、本研究を着実に遂行していく。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
Int. J. Dev. Biol.
巻: 59 ページ: 271-280
10.1387/ijdb.150239ss