研究課題/領域番号 |
26440181
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
佐々木 謙 玉川大学, 農学部, 准教授 (40387353)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 繁殖 / 内分泌 / ホルモン / ドーパミン / 昆虫 / 生体アミン / 社会性昆虫 / 生殖器官 |
研究実績の概要 |
本研究では、まず脳内ドーパミンの制御因子について、セイヨウミツバチとクロマルハナバチの雌雄でその潜在的な作用を比較し、ドーパミン制御機構の性差を調べる。また、脳内ドーパミンの制御メカニズムを追究し、ミツバチの雌で脳内ドーパミンの制御因子が多様化した生理学的背景を考察する。 平成27年度では、セイヨウミツバチにおいてチロシン摂取させた若齢雄のドーパミン量が上昇しない原因を調査した。実験では同日齢のワーカーと雄を無女王条件下で飼育し、餌摂取行動と餌交換行動をビデオ撮影し、行動解析を行った。その結果、若齢雄は自ら餌場での餌摂取を行わず、餌(チロシン)摂取はワーカーとの餌交換に依存していた。一方、ワーカーは若齢個体も自らの餌摂取を行っており、その結果、チロシン摂取による脳内ドーパミン量の上昇が起こっていた。このように餌摂取行動の性差が若齢期のチロシン摂取に影響を与え、脳内ドーパミン量も異なることが分かった。 雌幼虫の人工飼育実験から、多量の餌で生じた中間型は少量の餌で生じたワーカー型よりも脳内ドーパミン量が多く、幼虫期の餌摂取量が成虫期の脳内ドーパミン量に影響を与えることが分かった。この結果は女王における羽化直後の高い脳内ドーパミンレベルを矛盾なく説明できるという点で興味深い。発生過程においてドーパミンが外部・内部形態や行動にどのような影響を与えるかについては、今後調査する必要がある。 クロマルハナバチにおいては、日齢による脳内ドーパミン量の動態を雌雄間で比較した。雌(女王)は交尾後、低温休眠、創設開始の過程で脳内ドーパミン量が減少し、雄も性成熟過程で脳内ドーパミンが減少することが分かった。雌においてワーカーは卵巣発達と脳内ドーパミン量との間で正の相関が見られたのに対し、未交尾女王では相関が見られず、カースト間でドーパミンによる卵巣発達への関わりが異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度に予定していたセイヨウミツバチの餌摂取(特にチロシン摂取)による脳内ドーパミン量への影響についての雌雄間比較を計画通りに全て実施することができた。特に、雄のチロシン摂取による脳内ドーパミン量への影響や餌摂取行動・餌交換行動の性差を明らかにし、若齢期のドーパミン制御の雌雄差を示し、その成果を学術論文として発表することができた。 セイヨウミツバチの雌幼虫の人工飼育については、中間型の形態計測と脳内ドーパミン量の定量、行動解析を一通り進めることができ、幼虫期の餌摂取による成虫期のドーパミン量への影響を検証することができた。次年度はこの実験系をさらに発展させ、発生過程におけるドーパミンの形態・行動への影響を調査し、栄養代謝系による形態への影響と比較する計画である。 クロマルハナバチの実験については、雌雄における脳内ドーパミン量の動態、雌の脳内ドーパミン量と卵巣発達との相関を生殖虫とワーカーで調査し、雌雄生殖虫でのドーパミン量の動態が似ていることと、雌生殖虫とワーカーでドーパミンによる生殖器官への作用が異なる可能性を示唆した。次年度は幼若ホルモンに対する脳内ドーパミンへの影響を雌雄間、および雌カースト間で調査・比較する予定である。 これらの内容の一部については国内学会で発表を行い、議論を深めることができた。次年度以降の実験結果と組み合わせて、今後、学術論文として報告する予定である。このように、全体的には研究が順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度であるため、現在進行中の実験を完了させ、今までの断片的な実験結果や個々の実験結果を包括的にまとめる作業を行う。 セイヨウミツバチについては、すでに報告されているカースト分化・転換機構に関わる栄養代謝のシグナル伝達系とドーパミンが相互作用しているのか、あるいはドーパミンによる繁殖制御はそれらの経路とは独立にはたらくのか、について追究していく。そのために、qRT-PCR法を用いた遺伝子発現量の調査やRNAi法を用いた遺伝子発現抑制、あるいはドーパミン合成阻害剤を用いた実験を行い、それらとの関係を検証していく。また、人工飼育実験系を用いて、幼虫期からの発生過程でローヤルゼリー摂取が成虫期の脳内ドーパミン量や外部・内部形態、行動にどのような影響を与えるのかについて調査する。 セイヨウミツバチでのワーカー・雄間比較を続ける一方で、低次真社会性種であるクロマルハナバチでの調査も同様に行う。今年度の実験結果より、ドーパミンがワーカーの卵巣発達に関与している可能性があるのに対し、女王や雄では脳内ドーパミン量が産卵時期や交尾時期に減少する傾向が見られた。マルハナバチでは幼若ホルモンがワーカーの繁殖促進作用があると考えられていることから、幼若ホルモンによる脳内ドーパミンへの影響をワーカー・女王・雄において調査していく。 これらの実験結果をもとに、真社会性の段階に応じてドーパミン制御機構が雌で多様化し、巣内環境を含む様々な環境要因によって繁殖制御が可能になった過程について考察していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月末(3/29)の学会出張に関わる旅費の精算が次年度になったため、若干の未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の使用計画に変更は無く、請求した助成金を計画通りに使用する予定である。
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