本研究では、脳内ドーパミンの制御因子について、セイヨウミツバチとクロマルハナバチの雌雄でその潜在的な作用を比較し、ドーパミン制御機構の性差を調べる。また、脳内ドーパミンの制御メカニズムを追究し、ミツバチの雌で脳内ドーパミンの制御因子が多様化した生理学的背景を考察する。 平成28年度では、成虫までの発生段階で、セイヨウミツバチの脳内ドーパミンのカースト差や性差がどのようにして生じるのかを調査した。具体的には、蛹期の経過日数における脳内ドーパミン量、ドーパミン合成・代謝酵素遺伝子発現量、ドーパミン受容体遺伝子発現量、およびドーパミントランスポーター遺伝子発現量を定量し、カースト間や性間で比較した。その結果、脳内ドーパミン量の増減パターンがカースト間で異なることが分かり、ドーパミン合成酵素であるチロシン水酸化酵素やDOPA脱炭酸酵素の遺伝子発現量にもカースト差があることが明らかになった。また、ドーパミン受容体発現量に関しても一部の受容体遺伝子でカースト差が見られ、脳内ドーパミン量と関連した変化であることが示唆された。さらに、ドーパミントランスポーターの遺伝子発現量においては、カースト間で同じように日齢依存的に変化することが分かった。一方、ワーカー・雄間の脳内ドーパミンの動態は似ており、ドーパミン合成過程が類似していることが示唆された。このように変態期の脳内ドーパミン量とドーパミン合成・代謝酵素遺伝子発現、ドーパミン受容体遺伝子発現、ドーパミントランスポーター遺伝子発現量を一通り調べ上げ、比較することにより、ドーパミンが関連する発生過程のカースト間・性間の共通性と相違点が明らかになった。 クロマルハナバチに関してもミツバチと同様に蛹期の脳内ドーパミン量の変化について調査した。雄については蛹期から成虫羽化にかけて脳内ドーパミン量が上昇し、羽化期に最も高くなることが明らかになった。
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