研究課題/領域番号 |
26440182
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
本間 光一 帝京大学, 薬学部, 教授 (90251438)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経科学 / 行動学 / 脳・神経 / 動物 / 薬学 |
研究実績の概要 |
刻印付け(刷り込み)は、孵化直後の鳥類ヒナが親鳥を記憶し追従する早期学習の典型例であり、臨界期を有する記憶のメカニズムを解析するモデルとなっているが、臨界期を決定する因子は不明であった。代表者らは、ニワトリヒナを用いた実験系において刻印付けトレーニングを開始すると甲状腺ホルモン(T3)が脳内へ急速流入し、臨界期を開く決定因子となること、そしてT3が一過的に作用すると、その後行う他の強化学習の習得効率が顕著に向上すること(メモリープライミングと命名)、さらにT3を脳内に局所的に注入することで、一度閉じた臨界期を再び開けることも可能であることを示した。 本研究では、記憶を、定量的かつ個体レベルで解析できるという利点を生かし、『学習臨界期の扉を開くホルモンの脳内作用メカニズムを解明すること』を研究目的とする。 本年度はメモリープライミングの分子的な実体の解明を目指し、メモリープライミングに関与する分子の検索を行った。 その結果、Rho GTPaseシグナルに関わる物質群が重要であることを示す実験結果を得た。すなわちRho GTPaseシグナルを活性化すると、プライミング活性が抑制され、刷り込みは起こらなくなる。反対にRho GTPaseシグナルを抑制すると、プライミング活性が上昇し、刷り込みは起こる。以上の結果は、刷り込み学習を開始することでT3が脳内へ急速流入すると、神経細胞内のRho GTPaseシグナルが抑制され、下流の分子のリン酸化が抑制されることを示しており、このことがメモリープライミングの細胞内カスケードとして重要な生化学反応であることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はメモリープライミングに関与する分子の検索を行い、関与する分子群の同定に成功したことがその理由である。 その結果、Rho GTPaseシグナルに関わる物質群が重要であることを示す実験結果を得た。以上の結果は、刷り込み学習を開始することでT3が脳内へ急速流入すると、神経細胞内のRho GTPaseシグナルが抑制され、下流の分子のリン酸化が抑制されることを示しており、このことがメモリープライミングの細胞内カスケードとして重要な生化学反応であることを示唆する。T3およびRho GTPaseの阻害剤を作用させると棘突起内のアクチンの重合状態が変化することを示唆する結果を得ているので、細胞内骨格の制御に注目した解析を進めるが、Rho GTPaseシグナルに関わる物質群の重要性を示す結果を得たことは、本研究目的に照らし大きな進展と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
27年度も引き続き、 1、プライミング成立に必要なT3の短時間のnongenomicな神経細胞への作用機構と、 2、T3の効果を持続させる長時間の作用機構を解明する。特に2光子励起レーザ走査型顕微鏡を用いたin vivoイメージングによって、T3およびRho GTPaseの阻害剤を作用させたときの神経細胞の微細構造(棘突起、樹状突起)の変化を解析し、メモリープライミングの効果を維持する形態的な基盤を解明する。 T3およびRho GTPaseの阻害剤を作用させると棘突起内のアクチンの重合状態が変化することを示唆する結果を得ているので、細胞内骨格の制御に注目した解析を進める。具体的には棘突起内のGアクチンの重合状態をin vivoイメージングして、プライミングによる細胞内骨格のダイナミズムを解析する。 また、神経伝達に関与するシナプスタンパク群にも注目してT3の制御下にあるか否かについて、免疫抗体染色により量的変動と局在性を解析する。さらに、成立した効果が維持される分子的実体を明らかとするため、Rho GTPaseシグナル伝達系の下流で駆動される遺伝子群を、cDNAマイクロアレイ解析により網羅的に同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、甲状腺ホルモンが記憶形成に関わる分子メカニズムを鳥類を中心に研究し、満足すべき成果を得た。本来は今年度から哺乳類(マウス)の学習課題に及ぼすホルモンの効果に関する研究を開始したいと考えていたが、鳥類を用いた生化学的解析が順調であったのでこちらを優先し、比較的資金が必要な哺乳類を用いた解析が準備段階にとどまったために、今回の次年度使用額が差額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上記理由により、比較的資金が必要な哺乳類を用いた解析を行うほか、研究打ち合わせや研究成果発表に伴う旅費の使用も新たに見込まれるため、当該年度の研究計画に合わせた適切な使用ができるものと考えられる。
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