研究実績の概要 |
研究代表者らは、動物の中枢神経系ではたらく同期的振動ネットワークの仕組みと意義について調べている。ナメクジの中枢神経系は哺乳類に比べて少数のニューロンで構成される比較的シンプルなシステム(脳)である。一方で嗅覚中枢である前脳葉は、およそ10万個のニューロンが規則正しく整列して層構造を形成し哺乳類に似たような同期的振動活動(いわゆる脳波)を発生している特異的な脳領域である。ナメクジはこの同期的振動ネットワークを利用してにおいを嗅ぎ分けたり記憶したりする上に、素晴らしい再生能力で物理的破壊後の前脳葉や触角器官を再生回復させて、再びにおい情報処理能力を取り戻す。研究代表者らは、分散培養した前脳葉ニューロンが生理食塩水中で同期的振動ネットワークを再形成することを見出した。このin vitro同期的振動ネットワークにおける前脳葉ニューロンの自発的活動に影響を与えるさまざまな因子について調べた結果、特にコリン作動性シナプス伝達が同期的振動の駆動に重要な働きをしていることが分かってきた。一方で、多くの生体アミンたちは同期的振動に必須ではなく、ネットワークの外から影響を与える調節因子であることが分かってきた。これらの結果の一部は原著論文として(J Comp Neurol誌2014, 2016a, b)、または国内外の学会にてすでに発表済みである。さらに、上記のような化学シナプス伝達に加えて、電気シナプスの関与について調べた結果を国内外の学会にて発表した(学会発表リスト参照のこと)。具体的には、前脳葉ニューロン間の電気シナプスを構成するギャップ結合の抑制剤として、アラキドン酸およびニフルム酸を試したところ、前脳葉ニューロンの同期性と興奮性の変化が見られた。同期的振動ネットワークが一からつくられる様子を調べながら、脳波の仕組みと意義についてさらに発表してゆく予定である。
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