マウス腸組織及びオルガノイド培養系を用いて腸上皮におけるニコチン性アセチルコリン受容体(nAChRs)の役割を調べた結果、選択的アゴニストであるニコチンを作用させると、腸オルガノイドの成長及びマーカー遺伝子の発現に対して促進効果を示し、一方、選択的アンタゴニストのメカミールアミンを作用させると、抑制効果を示すことを見出している。次に、ニコチン投与後のnAChRs下流域に働く遺伝子群を、RNA-Seq法によるトランスクリプトーム比較解析を行った結果、Wntシグナルの1つであるWnt5aの発現が顕著に変動することを突き止めた。薬理実験の結果から、Wnt5aはニコチンと同様、腸オルガノイドの成長及びマーカー遺伝子の発現を促進し、Wnt5aの分泌阻害剤であるIWP-2で処理すると、抑制効果を示すことを見出した。さらに、メカミールアミンの効果抑制は、Wnt5aによりレスキューされることを確認している。このことは、nAChRsシグナルの下流域にWntシグナル(Wnt5a)が関与していることを強く示唆する結果である。抗体染色の結果から、nAChRsサブタイプがα2/β4であることを明らかにできた。また、α2/β4及びWnt5aが腸幹細胞のニッチの役割を果たしているパネート細胞に局在していることから、非神経性AChの刺激を受けたパネート細胞が細胞内シグナル(Ca2+シグナル)を介してWnt5aを放出し、傍分泌により腸幹細胞の分化・増殖を促進しているという結論を得た。上記の成果をまとめて、現在論文投稿中である。
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