研究課題
ミトコンドリアは細胞内で融合と分裂を繰り返している。哺乳類の培養細胞では分裂期直前にミトコンドリア分裂因子が活性化され、それが断片化される。この断片化を阻害すると細胞周期が停止する。一方、ショウジョウバエの精子形成過程でもダイナミックに変化する。ミトコンドリア構造と細胞内分布を超解像度顕微鏡にて観察した。培養細胞と違い、減数分裂前のG2期にミトコンドリアのネットワークが形成され、断片化なく分裂期に進行することがわかった。分裂中期には微小管に依存して赤道面に集約、微小管構造を介して娘細胞に均等分配された。その融合、分裂因子をノックダウンすると、どちらでも減数分裂直前に細胞周期が停止した。ATP合成酵素のノックダウンでも開始は阻害されなかった。以上から、ミトコンドリアの動態を監査して細胞周期進行を制御する機構の存在が推定された。減数分裂の開始には、1)サイクリンBの発現誘導、2)Cdk1のCAKによるリン酸化、3)Cdk1のT14Y15がTweによる脱リン酸化が必要である。この減数分裂の開始阻害の原因を検討した。まずCAKによるCdk1のリン酸化を調べた結果、分裂開始が抑制された細胞でもCAKによるリン酸化は検出された。次にCdk1のT14Y15をアミノ酸置換した構成的活性型変異体を発現させた。この変異体でも分裂の開始阻害は解除されなかった。さらに脱リン酸化酵素Tweの強制発現でも同様の結果を得た。最後にサイクリンBを強制発現させたところ、減数分裂へ移行する細胞が見られた。一方、直接核に移行することができるサイクリンA-NLSを発現しても効果は認められなかった。したがって、ミトコンドリアのダイナミクスに異常があると、サイクリンBの発現が抑制されるため、減数分裂の開始が抑制されることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
H27年度は、精巣から単離した精母細胞をexo vivoで培養し、ミトコンドリア局在シグナルーGFPを発現させた生細胞において、ミトコンドリア動態を観察できる実験系を構築できた。さらにCdk1のThr14Tyr15をアミノ酸置換した構成的活性型変異体Cdk1を精巣特異的に発現させたり、脱リン酸化酵素Tweも強制発現して、効果を調べることができた。直接核に移行して働くことのできるサイクリンA-NLSを強制発現して、細胞周期停止への効果を調べる実験もおこなうこともできた。
ショウジョウバエ幼虫の神経芽細胞でも、ミトコンドリアをGFP標識して、それらの構造やダイナミクスを生細胞にてライブ観察する。さらにGal4/UASシステムを用いて、それらの細胞内だけでミトコンドリアの融合、分裂遺伝子をノックダウンして、細胞周期進行への影響を調べる。同じような調査をS2培養細胞や哺乳類の培養細胞に対しておこなう。ミトコンドリアダイナミクス因子のsiRNAを添加して、ミトコンドリア構造に変化がないか調べる。ショウジョウバエの雄減数分裂細胞以外の細胞でも、同じようなチェックポイント機構が存在するか、調査する。
Cdk1のアミノ酸置換変異体を発現できる系統、サイクリンBを強制発現できる系統、サイクリンA-NLSを発現できる系統をH27年度に作製する計画であったが、いずれも他の研究者より、同等の系統を入手することができ、作製費用を節約することができた。海外学会にて成果発表する予定であったが、日程調整ができずにH27年度の海外出張は行わなかった。
Cdk1のアミノ酸置換変異体を用いた実験については、例数を増やして、統計処理する必要がある。H28年度も継続実験とする。H28度において計画しているショウジョウバエの体細胞あるいは培養細胞におけるミトコンドリア動態の観察件数を増やす。細胞培養やsiRNAの作製には当初予想よりも経費がかかることがわかったので、これにあてる。研究成果をとりまとめて、H28年度中に海外学会にて成果発表する予定である。このための出張費用に充てる。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (28件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件)
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