研究課題/領域番号 |
26440188
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
井上 喜博 京都工芸繊維大学, 昆虫先端研究推進センター昆虫バイオメディカル研究部門, 准教授 (90201938)
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研究分担者 |
山口 政光 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 教授 (00182460)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 減数分裂 / ミトコンドリア / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアは細胞内で融合と分裂を繰り返している。たとえば哺乳類の培養細胞では細胞分裂を始める直前にDrp1がCdk1のリン酸化により活性化し、ミトコンドリアを分裂させて断片化する。これを阻害すると分裂期に移行できない。一方、ショウジョウバエの精母細胞では、減数分裂開始前にミトコンドリアが融合したネットワークが作られる。そしてネットワークを維持しながら減数分裂を開始し、微小管に依存してミトコンドリアは娘細胞に均等に分配されることをみいだした。このネットワーク形成にはミトコンドリアの融合因子と分裂因子の両方が必要であることがわかった。この際、どちらの因子を阻害しても減数分裂直前に細胞周期が停止した。その後、減数分裂をおこなわずに精細胞に分化した。この細胞周期停止は、単にATP合成が阻害された結果ではない。ATP合成阻害剤による処理、ATP合成酵素のノックダウンでは周期停止は起こらなかった。この停止は分裂開始に必要なCdk1のリン酸化、脱リン酸化ではなく、そのパートナーであるサイクリンBの発現が阻害されたことによることが分かった。この細胞分裂停止の生物学意味を探るために、ミトコンドリアDNAの合成修復に必要なDNAポリメラーゼgammaの触媒あるいは調節サブユニットをノックダウンした。これらの操作でも同DNAのコピー数が低下していることを定量PCRで確認した。どちらの場合も減数分裂開始が同じように阻害された。ミトコンドリアの分裂、融合は、損傷したDNAやタンパク質を交換、補てんする意味がある。これが阻害された場合は異常な精子が産生されないように減数分裂を開始させない、細胞周期チェックポイント機構が働いていると考えられる。現在、融合、分裂の阻害と同じ調節機構が働いていることを引き続き調査している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ミトコンドリアの分裂、融合が阻害された場合は異常な精子が産生されないように減数分裂が開始しない、細胞周期チェックポイント機構が働いていることが明らかになった。当初の計画では、ショウジョウバエの培養細胞を用いて、同様な制御機構が培養細胞の有糸分裂時にも働いているか、検証することを計画した。しかし、この点については哺乳類の培養細胞を用いてすでに報告がなされた。生物種を超えて同じような制御機構が保存されている可能性は高い。したがってこの点に関しては研究の新規性が高く保たれているとは言い難い。一方、精原細胞の有糸分裂の過程は体細胞分裂すなわち有糸分裂である。この過程では培養細胞と同じようにミトコンドリアが分裂前に分断化され、小さな断片として娘細胞に分配されているように見える。そこで同じ精巣内の一連の発生現象である、精子形成過程にみられる2種類の細胞分裂、すなわち有糸分裂と減数分裂ではミトコンドリアの状態をモニターして細胞分裂周期を進行させるメカニズムが異なることを証明しようとしている。この時期の細胞は哺乳類の細胞よりもはるかに細胞質が小さい。それにしたがってミトコンドリアのサイズも小さいので通常の蛍光顕微鏡の解像度(200nm)では観察がしにくいという問題点がある。この問題点はショウジョウバエの培養細胞でも同じである。これらを解決するために観察法の改善を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、精巣内の各発生ステージの細胞について、ミトコンドリアの構造を詳細に観察する。そのために精巣の超薄切片を作製して、透過型電子顕微鏡による観察をおこなう。あるいは、通常の螢光顕微鏡の解像度を超えて100nm以下の観察が可能な、超解像度顕微鏡を用いて、精原細胞あるいは減数分裂細胞の細胞分裂期におけるミトコンドリアの観察をおこなう。ミトコンドリアの融合、分裂因子あるいはDNAポリメラーゼgammaをノックダウンした精原細胞、精母細胞を作製して、ミトコンドリアにどのような構造変化があるか詳細に調べる。DNAポリメラーゼgammaのノックダウンにより、減数分裂サイクルが停止するメカニズムを明らかにする。ノックダウン細胞内のCdk1のリン酸化、脱リン酸化状態の調査、サイクリンA、Bの蓄積の調査をおこなう。Cdk1の構成的活性型変異タンパクあるいは各サイクリンの強制誘導により、細胞周期停止が解除されるか調査する。その結果をもとにミトコンドリアの融合、分裂のダイナミクスの異常による減数分裂サイクルの停止と、ミトコンドリアDNAの損傷修復の阻害によるサイクルの停止とが同じメカニズムによることを証明する。さらに精原細胞の有糸分裂におけるミトコンドリアの制御が哺乳類の培養細胞と共通なメカニズムにより制御されていることも証明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ミトコンドリアの融合、分裂をくりかえすというダイナミクスな性質を抑制すると、ショウジョウバエの精子を作る減数分裂の開始が阻害されることをみいだした。この現象は、ミトコンドリアの動的な性質という細胞質の状態が核の分裂周期に影響を与える場合があることを示すことができた。ところが同じような減数分裂周期の停止がミトコンドリアDNAの複製の阻害あるいは損傷修復の阻害によってもおきることがわかった。したがって本研究の目的を広げて、ミトコンドリアが、たとえば老化や酸化すとれすにより損傷を受けた場合にそれを修復する融合、分裂が阻害された場合に細胞周期進行が阻害されるという仮説を証明する必要が生じた。そのため研究期間を延長して、この点を次年度におこなう。このために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
ミトコンドリアDNAの複製あるいはその修復に必要なDNAポリメラーゼgammaの触媒、調節サブユニットを精巣特異的にノックダウンし、ミトコンドリアDNAが損傷していることを損傷マーカーを用いて確かめる。雄減数分裂サイクルが減数分裂開始直前に停止していること、これにはサイクリンBの合成が阻害されていること、Cdk1の構成型変異の強制発現では細胞周期停止が解除されないことを示す。ミトコンドリアが損傷を受けると、それを修復するために他のミトコンドリアと融合してDNAを交換したり、分裂して損傷部分だけをマイトファジーで除く。ミトコンドリアの融合、分裂が阻害された場合にこの修復ができないので、細胞周期進行が阻害されるという仮説を証明する。ミトコンドリアの構造は超解像度顕微鏡を使って詳細に観察する。
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