研究課題/領域番号 |
26440198
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
鈴木 留美子 大分大学, 医学部, 助教 (70599092)
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研究分担者 |
山岡 吉生 大分大学, 医学部, 教授 (00544248)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ピロリ菌 / ゲノムシーケンス / 系統解析 / 次世代シーケンサー / 胃ガン / 胃MALTリンパ腫 |
研究実績の概要 |
本研究のテーマの1つ(1)先史時代アジアにおける人類移動経路の推定に関しては、GenBankに完全ゲノムが登録されているHelicobactert pylori(ピロリ菌)に加えて、次世代シーケンサーを用いて完全ゲノムを読み取った24株を加え、70株の完全ゲノム情報を用いた系統解析、および集団解析を行った。この解析から、沖縄特異的なピロリ菌集団(沖縄A)のうちの一つは、2万年~3万年前という旧石器時代に相当する分岐年代をもつこと、もう一つの沖縄特異的なピロリ菌集団(沖縄B)は分岐年代が縄文時代にあたる約1万年前であること、また北海道アイヌの菌も沖縄Bと同等の分岐年代を示すことがわかった。これらから、沖縄Bとアイヌグループは縄文時代に日本列島にやってきた人々に由来するのではないかと考えられる。沖縄Aはそれ以前に琉球列島に人類移動があったことを示しており、日本人の起源に関して新たな知見を加える結果である。しかし、沖縄Aと近縁な株はアジアの中でもネパールにしかみつかっておらず、沖縄Aグループの移動経路についてはさらなる解析が必要である。 もう1つのテーマである(2)東アジア株における新規疾患関連領域の探索については、胃ガン株と胃MALTリンパ腫株のゲノムワイドな比較を行い、ピロリ菌の主要な病原性遺伝子であるCagAとVacAで、アミノ酸頻度に差のある座位を見いだし、論文化を進めている。これ以外に、これらの疾患群間でアミノ酸頻度に差のある座位を持つ未知の遺伝子を4つ同定しており、実験的な手法も使って機能を調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲノムワイドな沖縄株、本州株、北海道アイヌ株の解析により、日本におけるピロリ菌の多様性が明らかになった。また、沖縄には分岐年代が旧石器時代に相当するピロリ菌が存在するという新規な発見もあった。疾患株群間の比較でも、既知の病原遺伝子でのアミノ酸頻度の違い、未知の疾患関連遺伝子の同定などの成果があった。
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今後の研究の推進方策 |
我々が見出した沖縄2のグループの推定分岐年代は旧石器時代にあたる2万年~3万年前であり、これはその頃既に琉球列島に人々が達していたことを示唆している。しかし、近縁な菌はネパールでしか見いだされておらず、ネパールから沖縄に至った経路は不明である。今後は少数民族を含むアジア各国の菌の調査をさらに続け、ネパールと沖縄の間を埋める株の発見に努める。疾患関連遺伝子については、胃ガン株と胃MALTリンパ腫株の比較でゲノム比較の有効性が認められたので、今後は胃ガン、十二指腸潰瘍、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)などの疾患群を比較し、それぞれの疾患に関連する遺伝子の同定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新たに解析用コンピュータを購入する予定だったが、大学内共通機器として導入されたコンピュータの利用で十分な結果が得られたため、購入を見送った。
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次年度使用額の使用計画 |
今後、解析量が増えて大学内共通機器コンピュータの負荷が大きくなった場合は、新規マシンの購入を検討する。マシンパワーに余裕がある場合は、次世代シーケンシング用試薬等の購入に充てる。
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