本研究は、Helicobacter pylori(ピロリ菌)のゲノム解析を通して、(1)先史時代アジアにおける人類移動経路の推定、および(2)東アジア株における新規疾患関連領域の探索、の2つのテーマを追究した。テーマ(1)に関しては、GenBankに登録されているピロリ菌70株の完全ゲノムに、我々が次世代シーケンサーを用いて読み取った24株の完全ゲノムを加えて系統解析を行った結果、沖縄には他の東アジア地域にないピロリ菌集団が2つ存在し、そのうちの1つ(沖縄A)の分岐年代が約2万年~3万年前であること、もう一つ(沖縄B)のグループの分岐年代が約1万年前であることを解明した。また、7つのハウスキーピング遺伝子配列を用いた集団解析では、Oki-Aと、パプアニューギニアやオーストラリアに存在するhpSahulグループに共通性が見られ、Oki-Bは、北海道アイヌの株が含まれるhspAmerindと同じサブブランチに属し、ヒトSNPの研究でアイヌ人と琉球人に共通性が見られるという結果と一致した。テーマ(2)に関しては、大分で採取されたピロリ菌について、胃がん由来18株、胃マルトリンパ腫由来12株、どちらの疾患にも進展していない胃炎株18株に分けて、ピロリ菌の主要な病原遺伝子であるCagAおよびVacAのアミノ酸配列全長を比較した結果、疾患群間でアミノ酸頻度に有意差のある座位を、CagAで4座位、VacAで3座位同定した。また、CagA、VacAで有意差の見られたアミノ座位が、タンパク質上でどのようなドメインに入っているかを示し、CagAについてはタンパク立体構造上のどこに位置するかも明らかにした。
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