研究課題
本研究課題は、「節足動物の外形態多様性の成立と形態形成遺伝子群の分子進化の関係の解明」を最終目標として、ミジンコ付属肢形態の「違い」を決定するために重要な遺伝子群の同定と、それらの遺伝子群が関与する分子機構の解明を研究目的としている。【形質転換法によるGFP発現ミジンコの作製とGFP発現を指標とした胸部付属肢形成過程の詳述】野生株のミジンコ胚におけるRNA干渉実験では、発生の各ステージで固定したRNAi胚における変化を観察するしかないために、多数の形態形成遺伝子の機能を効率よく解析するのは困難である。RNAi胚の表現型や遺伝子発現の変化などを、GFPを発現する形質転換系統を用いて胚発生過程の初期から終期まで追跡すれば、この問題を乗り越えることができると着想した。平成26年度は胚全体で核局在型GFP を発現する系統を用いて胸部付属肢形成を含む胚発生過程を共焦点レーザー顕微鏡でタイムラプス解析し、ミジンコ発生の全体像を理解することが出来る複数の動画を作製した。この過程で、発生初期の胚内部を放射状に移動する細胞群の波が複数回生じることや、腹部正中線に沿って後部から前部に移動する細胞群が存在することなどを見出した。【形質転換体ミジンコ胚における各種形態形成遺伝子群の「リアルタイム」機能解析】GFPを発現する形質転換系統ミジンコにおけるRNA干渉実験により、各種形態形成遺伝子の機能抑制により引き起こされる影響を、GFPの発現を指標にして「リアルタイム」で追跡することを目的とした。平成26年度は、腹部正中線細胞の発生に必須であることが示唆されていた形態形成遺伝子のdsRNAを微小注入して観察条件の最適化を行った。同時に胚発生の経時的変化を追跡したところ、この遺伝子のノックダウンにより腹部正中線細胞の形成および移動が異常になり、数も減少することを動的に明らかにすることが出来た。
2: おおむね順調に進展している
【形質転換法によるGFP発現ミジンコの作製とGFP発現を指標とした胸部付属肢形成過程の詳述】胚全体で核局在型GFP を発現する系統を用いて胸部付属肢形成を含む胚発生過程を共焦点レーザー顕微鏡でタイムラプス解析し、ミジンコ発生の全体像を理解することが出来る複数の動画を作製した。研究計画では、新たに3種類の形質転換系統(胚全体:細胞膜局在型、付属肢:細胞膜局在型、付属肢:核局在型)を樹立する予定であったが、平成26年度に集中的に作製を試みた「付属肢:核局在型」系統をはじめ、残念ながら現時点ではどの系統も樹立するまでには到らなかった。これは主にミジンコ形質転換の効率が非常に悪いことに起因するものと思われたが、ミジンコでは遺伝子発現制御領域に関する研究がほとんど進んでいないこともあり、現在使用しているdll遺伝子上流のDNA領域ではGFPの発現を誘導できないという可能性も否定できない。【形質転換体ミジンコ胚における各種形態形成遺伝子群の「リアルタイム」機能解析】共焦点レーザー顕微鏡によるRNAi胚のリアルタイム観察の条件は大方確立できた。またリアルタイム解析の前に、作製したdsRNAが実際にRNA干渉を引き起こし、リアルタイム解析に用いることが出来ることを、6種類のHox/paraHox遺伝子の通常胚に置ける予備的なRNA干渉実験により確認した。
平成27年度の研究推に関して:1)研究計画に記した形質転換系統作製の試みを継続する。当初はプラスミドDNAの微量注入を昨年度以上の数のミジンコ胚に行ってみるが、どうしても目的の形質転換系統が得られないようならば、別のDNA領域の使用も検討する必要がある。2)ただし形態形成遺伝子群の内、少なくともHox/paraHox遺伝子群のRNAi解析に関しては体節単位の非常に大きな影響が生じることが予想されるため、3種の新GFP発現系統が樹立されればより詳細に解析できるのは間違いないが、リアルタイム解析に必須という訳ではない。そこで、まずは「胚全体:核局在型」のGFP発現系統を用いて、Hox/paraHox遺伝子群のリアルタイム機能解析を優先して行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
Gene
巻: 555 ページ: 335-345
10.1016/j.gene.2014.11.028
PLoS Genetics
巻: 10 ページ: e1004484
10.1371/journal.pgen.1004484