研究課題
本年度は特定の分子に着目し,補完的分子進化についての研究を行った.まず,疾患データが豊富なヒトヘモグロビン遺伝子に注目し,哺乳類におけるアミノ酸サイト間の共進化パターンについての解析を行った.その結果,共進化を起こしているアミノ酸は機能的に重要であると思われるにもかかわらず,進化的な保存度は必ずしも高くはないということが分かった.また,進化的な配列保存性と機能の変異を引き起こすヒト集団中の遺伝的変異(ここでは疾患を引き起こす変異)との関係に興味深い示唆を得ることができた.今後これらの研究を進めることにより,分子進化がどのようにして起こっていくのかについての詳細なメカニズムが明らかになるのではないかと考えられる.また,ヒトミトコンドリアにおける補完的進化についての検証を行うために,ヒト集団中でミトコンドリアゲノムにかかる自然選択についての調査を行った.すでに知られているヒトミトコンドリアゲノム配列およそ30,000配列を調べることにより,ヒト集団中に有害なアミノ酸変異が数多く変異として存在していることが分かった.中でも,30,000人に一人というスーパーレアな非同義変異については,遺伝子がその変異を持つ割合と,遺伝子にかかる長期的な機能的制約とが非常に強い相関を示した.今後このような変異について詳細に調べることにより,ヒトにおけるミトコンドリアの有害変異に関する知見とそれに関する補完的進化に関する情報が得られると考えられる.
2: おおむね順調に進展している
研究計画では,本年度はマンテマ属の遺伝子解析実験を行う予定になっていたが,他研究グループにより既に発表が行われてしまったので,当初計画していた実験は行わなかった.しかし,別の切り口から行った研究が興味深い結果を示しており,計画全体としては順調に進んでいると考えている.
今後は,主に二つの方向から補完的進化についての解析を行う予定である.一点目は本年度より開始した,ヘモグロビン遺伝子をケーススタディとした進化的保存性と機能的変異に関する研究である.特に,アミノ酸配列の進化的可塑性に注目した解析を行う予定である.もう一点は,ヒト集団におけるミトコンドリア遺伝子における補完的進化の検証である.集団より得られた核ゲノムとミトコンドリアゲノムにおける遺伝的多様性をタンパク質複合体の立体構造と照らし合わせることにより,ヒト集団の中である組み合わせのアミノ酸変異に対する弱い負の淘汰がかかっているかどうかを検証する予定である.
データ解析用計算機を購入する予定であったが,研究の進展度合いを考慮し,次年度に購入を行うことにした.研究に使う期間は短くなるが,同一金額であってもより性能の良い計算機を購入することができるので,効率的に研究を進めることができると判断した.
次年度前半に解析用計算機を購入する予定である.
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
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